2024年7月4日木曜日

2024 INDYCAR レポート R9 ホンダ・インディ200・アット・ミッド‐オハイオ:ハイブリット化、その仕組みと、ハイブリッド・インディーカーの進む方向は?

Photo:Honda News.com

 ミッド‐オハイオ戦でいよいよインディーカーはハイブリッド時代に突入 

 遅れに遅れてきたインディーカーのハイブリッド化がついに叶います、2024年シーズンどん真ん中の今週末のレースで。
 インディーカーの新パワー・ユニットは、インターナル・コンバスチョン・エンジン(ICE)から、ICE+エナジー・リカヴァリー・システム(ERS)のハイブリッドになります。ブレーキングで発生するエネルギーをジェネレーターで電気に換えてスーパーキャパシターに蓄え、貯めたパワーをモーターを介して後輪に伝えるシステムが搭載されます。ICE+ERSの効率の良さは、これからインディーカー・レースというモータースポーツの世界でさらに磨き上げることが期待されるわけです。

ベルハウジングに組み込まれたERS Photo:Honda News.com

 インディーカーのERSでモーターを回すエネルギーとなる電気を蓄えるのは、F1やWEC、IMSA GTPですでに使われているバッテリーではなく、充電にかかるスピードも、パワーを放出するスピードも速い=つまりは効率の良い=スーパーキャパシター。

スーパーキャパシタ Photo:Hoda News.com

 シェルの開発したリニューアブル燃料、再生可能材料を取り入れたファイアストンのタイヤと、インディーカーはレースのグリーン化で頑張って来ていますが、そこに今度はスーパーキャパシターを使ったERSが加わるわけです。

 ERSはすべて、マグネシウム化されたベルハウジング内に収納!

 ERSのエネルギー・ストレージ・システム(ESS)とモーター・ジェネレーター・ユニット(MGU)は、両方ともベル・ハウジング内に収められます。ベル・ハウジングとはエンジン後方側とギヤボックスを連結させている筒状のパーツで、非常に堅牢な構造物であることから、アクシデント時などの安全性確保や重量物の配置位置としてベストです。燃料タンクとも離れたロケーションです。

上写真とは逆側からみたベルハウジング Photo:Hond News.com
 
Photo:Hond News.com

 インディーカーのベル・ハウジングは今年からマグネシウム製とされています。去年まではアルミニウム製でしたが、ハイブリッド導入で車重が増えるため、ギヤボックスのケーシングともどもマグネシウムに材質を変え、軽量化を図りました。インディーカーはこの他にもエアロ・スクリーン部でも設計や材質の変更によって軽量化を実現。マシンの重量増は、昨年までのものと比べると30kg程度に抑えられています。そして、その重量増に合わせ、ファイアストン製のタイヤは新スペックに変更されています。今シーズンの第8戦ラグナ・セカまでは、すでにファイアストンが生産を始めているハイブリッド・マシン用タイヤが使われるという、イレギュラーな状況となっていましたが、ミッド・オハイオからは重量が増え、パワーもアップしたマシンにマッチしたタイヤによる戦いが繰り広げられることなります。ソフトなオルタネート・タイヤの摩耗が第8戦までよりも早くなる可能性があり、そうなればレースの戦い方にも変化が見られることでしょう。

メーカーからの強いニーズもあり、あえてシーズン途中からのハイブリッド投入へ> 

 本当なら今年の開幕戦で華々しくデビューさせたかったハイブリッド・パワー・ユニットでしたが、オフの間に詰め切る予定だったシステムの信頼性確保ができなかった上、全チームに十分行き渡るだけのスペア・パーツのストックをするためにも、それなりの時間が必要となって、インディー500以降での導入へとスケジュールが遅らされました。それが、いよいよ第9戦ミッド・オハイオで実戦デビューとなるわけです。今シーズンの残り9戦は、ロードコースx2、オーヴァルx6、ストリートx1ですが、それらすべてでハイブリッド・パワー・ユニットは使用されます。来年には、第109回インディアナポリス500において、初めてスーパースピードウェイでも使われます。

 ハイブリッド化は来シーズン開幕からでも良かったのでは? という意見は当然ありました。シーズン途中から新システムを使うとなると、やっぱり信頼性の心配が捨てきれませんし、開発を担当していたチームと、そうではなかったチームの間に新システムに対する理解度、習熟度の違いが大きくあり過ぎる……という公平性の問題も考えられますから。
 しかし、インディーカーとしては1日でも早く導入したかったんですね。参戦自動車メーカーが、市販乗用車との共通性のある技術を強く求めている、という事情もあってのことでしょう。ICEオンリーはもはや時代遅れ。そんな状態からは1日でも早く抜け出さねば! という思いも強い、といういうことだと思います。 

ESSはホンダ、MGUはシヴォレーが開発を担当 

ホンダが開発を担当し、スケルトン社と共同で完成させたESS Photo:Hoda News.com

ESS単体 Photo:Honda News.com

  インディーカーの誇るハイブリッド・システムは、ホンダとシヴォレーが共同で開発しました。インディーカーの選定したドイツの会社は、残念ながらインディーカーの考えたコンセプト通りの製品を作り上げるだけの技術力がなく、ひっそりと撤退しました。そこでインディーカーが苦肉の策として、エンジン・サプライヤー2社に開発を懇願。これを彼らが受け入れ、代償として排気量2.4リッターの新エンジンはお蔵入りとなりましたが、ホンダがESSをスケルトン社との共同で、シヴォレーがMGUの開発をエンペル社との共同で行いました。

ERSによってレース中のオーヴァーテイクが容易になることを狙う一方
ドライヴァーに要求される新システムへの習熟

 ERS導入は、当然のことながら、それを活用してレースをよりおもしろいものにしなければ意味がありません。F1ではパワー・ユニット全体の開発をエンジンマニュファクチャラーが行っていますが、インディーカーのハイブリッド・システムはIMSA GTPと同じく全エントラント共通=ワン・スペックで、チームによるそちらの独自開発は禁止されます。このような状況下、インディーカーはエネルギーの蓄え方(=ハーヴェスティング)に自由度を持たせたり(=ハーヴェスト量をダイヤルで調整したり、パドルで操作することも可能)、P2Pとの併用も可能にするなどして、レース中のオーヴァーテイクが容易に、多くなることを狙っています。ハイ・ブーストのエンジン、モーター、P2P使用でインディーカーのエンジンは900馬力程度になるようです。

 ツインターボのインディーカー用V6エンジンは、パワーを上げたいだけならターブのブースト圧をアップさせれるだけでいい。それをせず、新システムによるパワー・アップをいかに上手に活用するかが勝負の綾となる、といった世界を目指しました。ドライヴァーたちはレース中の路面や自らのタイヤの状態を感じ取り、考え、その時々に一番合った行動を取ることが求められるようになります。これまでよりも断然忙しく、考えることも多くなるレースとなるはずですから、賢くないと勤まりませんし、”クール”を保つ能力の重要性も増します。 

ERSの使用状況は公開されるのか? 細部はまだ手探り。週末のレースに注目!

 ハイブリッド時代のインディーカー・レースでは、見せ方はどう変わるんでしょうか?
P2Pの場合は、各エントラントの残量(各ラップでの消費量)がコントロール・ラインを横切る毎にタイム・モニターに表示されていました。コースのどこでどれぐらい使っているかは、各エントラントが独自で考え、ノウハウを築き上げるべきものですから、ライヴァル勢に知られないように配慮がなされていました。P2Pを防御的に使われるのを防ぐ目的も大きかったのですが、実際には、相手がP2Pを使うと思われる場所で自分も押して……というのが常態化していましたが。ERS使用(=ハーヴェスティング側も、パワー放出側も)は公開されるんでしょうか? どの程度まで? P2Pは変わらず? その辺りはまだわかっていません。

 今週末、とても多くのことが明らかになるでしょう。賢い利用法はどんなものなのか。それを見出すのには時間がかかるような気もします。オーヴァルでの利用法がどのようになるのか、どれだけの効果が得られ、オーヴァーテイクが増える=レースに影響が及ぼされるのでしょうか。
以上

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