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これぞオーバルレースという激闘はイエローチェッカーに
雨の心配があるというので14分だけではあったけれど早めにスタートしたテキサス・モーター・スピードウェイでの2023年の第2戦。しかし、雨は降らず。逆に青空が顔を出すぐらいの好天に。そして、レースは期待以上の激しいものになった。
気温は22℃から26℃、路面温度に至っては26℃から36℃まで、スタートからゴールまでの間に大幅に上がって行ったというのに、周回を重ねるごとにタイヤ・ラバーの乗っていった路面でのバトルは、レースが進むに連れてどんどん過激になって行って、ゴール前にはフル・コース・コーションを利用してフレッシュ・タイヤを装着する作戦に出る面々も現れたものだから、ステイ・アウトしたユーズド・タイヤで健闘する者もいて、上から下まで、どの順位を争う戦いも超ホットになった。
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エキサイティングなバトルを生み出した
インディーカーの新エアロレギュレーション
インディカーの技術部門による今年のテキサス向けの新エアロ・コンフィギュレイションは、大きな成果を挙げていた。IRL時代の危険に過ぎるパック・レーシングまでは行かせず、タイヤ・マネジメントやマシン・コントロールのスキルは要求する、実に良いバランスが実現されていた。ただし、問題なのは今回のコンフィギュレイションをキープしたとしても、来年のテキサスが今日と同じだけの接戦になる保証はないところ。1年経てば路面の劣化が進んでグリップが落ちるし、気温や湿度、風向きやその強度といった要素が今回と同じになることはあり得ない。その上、どのチームもマシン・セッティングを1年後にはより向上させて来るので、チームごとの進歩の差異がコース上での接近戦のレヴェルを今回とは異なるものにしてしまう可能性はある。そもそも、今回のギリギリでパック・レーシングにならないゴール間際の超接近戦は、フレッシュ・タイヤの恩恵もあってのことだった。もしイエローがほとんど出ないロング・ランが続くレース展開だったら、マシンの仕上がり具合やドライヴァーの腕の良し悪しはもっと露わになっていただろう。
オーワードvsニューガーデン
昨年と一昨年のテキサスウイナーが突き抜けたパフォーマンスを発揮Photo:Penske Entertainment (Joe Skibinski)クリックして拡大
今日の戦いの主役となっていたのは、パト・オーワード(アロウ・マクラーレン/シヴォレー)とジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー/シヴォレー)。一昨年のテキサス・ウィナーと去年のウィナーだ。彼らにチャレンジしたのはアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)、ロマイン・グロジャン(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)、コルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート・ウィズ・カーブ・アガジェニアン/ホンダ)、デイヴィッド・マルーカス(デイル・コイン・レーシング・ウィズHMD/ホンダ)。予選で今ひとつだったアンドレッティ勢からグロジャンとハータの二人がレース用のマシン・セッティングではパフォーマンスを大幅に向上させて来ていて、バトルがおおいに分厚くされていた。
アレックス・パロウ「あの二人はどこでも自在に走れるマシンを手にしていた」ワイドなラインで攻めるオーワードに対して、ニューガーデンは終始イン側から応戦する Photo:Penske Entertainment (Chris Jones)クリックして拡大
オーワードとニューガーデン。どちらもシヴォレー・エンジン・ユーザーだ。レースの中盤過ぎ、彼ら二人だけがリード・ラップという状況になっていた。他のライヴァル勢を完全に突き放すパフォーマンスを彼ら二人だけが見せていた。これは実に驚きだった。近頃のインディカー・レースでは、10人以上が僅差のラップ・タイムにひしめき合うことはあっても、ここまで限られた少人数が他に明確な差を突きつけるような戦いは見られていない。今年のエンジンではシヴォレーがホンダをパワーで上回っているのではないと思う。予選でポール・ポジションを獲得したのはシヴォレーを使うフェリックス・ローゼンクイスト(アロウ・マクラーレン)だったが、2位はホンダ・エンジンを使うスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)だった。差はエンジンにではなく、マシン・セッティングを纏め上げる、ドライバーを含めたチームのエンジニアリング能力の違いにあったと思う。
パロウのマシンもライン自由度を生かして積極的な戦いを展開していたが、最後は2台に引き離される結果に Photo:Penske Entertainment (Chris Jones)クリックして拡大 |
レース用セッティングの最終確認を出場チームが行ったのは、予選後のファイナル・プラクティス。“あそこでインでもアウトでも自在に走れるマシンを手にしていたのがオーワードとニューガーデンだった”とレース後にパロウは指摘していた。彼ら二人だけが、ハイ・グルーヴでも自信を持って走れるマシンに仕上げていた。どのラインでもハイ・スピードで走ることのできるコツのようなものも習得していた。
ロッシはピットでカークウッドと接触。62周目にピットスルーペナルティを受けてトップ争いから脱落してしまう Photo:Penske Entertainment (Joe Skibinski)クリックして拡大
そして、彼らのチームメイトたちであっても、それを完全にものにしてはいなかった。ニューガーデンのチームメイトは去年のテキサスで圧倒的な速さを誇ったスコット・マクロクリンとウィル・パワーだが、彼らは今日のレースで優勝争いに加われていなかった。オーワードのチームメイト二人、フェリックス・ローゼンクイストとアレクサンダー・ロッシも同様。ロッシは序盤にしてピット・アクシデントに遭って後退。実はオーワードと変わらぬ力を持っていたのかもしれないが……。
ユーズドタイヤで健闘したパロウだったが
二人の走りに対抗することはできず
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どのタイミングで先頭に立つか。その決断が勝敗を決する展開になっていた。パロウはレース終盤にリードしたがっていたが、パスしても逃げ切ることはできなかった。彼は装着タイヤで不利に置かれていたからだ。周りのドライヴァーたちはイエロー中の213周目にフレッシュ・タイヤにスイッチしていたが、パロウだけは188周目に履いたタイヤでゴールまで走り切ったのだ。その点を考えると、レース終盤に最も速い存在となっていたのはパロウだった……のかもしれない。
レース中盤にして同一周回はオーワードとニューガーデンだけに
ところが179周目、ローゼンクイストのクラッシュによるイエローで展開が一転
同一周回となった8台による激闘に
レース中盤にオーワードは2位以下に大差をつけた。2回目のピットストップをニューガーデンが早めに行い、フレッシュ・タイヤで走る周回数が多くしてリードを築いた。しかし、セオリー通りのタイミングで二度目のピットストップを行った後のオーワードがやたらと速く、ニューガーデンとの間にあった差を見る間に削り取り、トップを奪うとぐいぐいと差を広げ、二人の差は5秒以上にまでなった。
ローゼンクイストのクラッシュ、イエローコーションからのリスタートで、レースは一転、激しい高速バトルの応酬へと一気にシフトした Photo:Penske Entertainment (Chris Jones)クリックして拡大 |
163周目にはリードラップがオーワードとニューガーデンの二人だけになったが、179周目にフェリックス・ローゼンクイスト(アロウ・マクラーレン/シヴォレー)がクラッシュ。そのイエローの間に8番手のドライバーたちまでがリード・ラップに復活するチャンスを与えられた。そして、その中からパロウとグロジャンがトップ争いに積極的に加わり、ファンを熱狂させるバトルが展開された。
積極的に勝負に出たパロウ、グロジャン、ハータ
しかし、オーワードとニューガーデンの牙城は崩せず、勝負は両者の一騎打ちにPhoto:Penske Entertainment (Chris Owens)クリックして拡大
そのグロジャンとハータも、パロウと同じで仕掛けが早過ぎるように見えていた。勝利をより現実的なものと感じ、冷静にタイミングを測っていたのがオーワードだった。全員をラップ・ダウンにする目前まで行った彼は、ニューガーデンにでも負ける気はしていなかったのだろう。“ターン1~2で相手に前に出られても、ターン3からターン4、そしてコントロール・ラインを横切るところまでアウト側から並びか続ければ相手のギリギリ前に出られる”と彼は確信していた。
コントロールライン上では前に出るオーワード。最終ラップもこのように行く狙いだったが Photo:Penske Entertainment (Chiris Owens)クリックして拡大
その勝利をシミュレートしたシーンを彼はゴール目前の10周で少なくとも二度見せていた。インサイドを譲らず、ターン・インを遅らせてニューガーデンは走っていたが、オーワードには逆転勝利を飾る自らの姿が見えていた。
クライマックス目前、グロジャンのクラッシュで激戦にピリオド
最終ラップに懸けたオーワードの戦略はイエローチェッカーで潰える
「勝つチャンスは十分にあった。勝つためにはベストのタイミングで前に出ることが必要だった。そのチャンスは最終ラップだと考えていた。そうでないと、逆に最終ラップに相手にしてやられてしまうから。あの最後のイエローによって、僕らの勝利は奪われたんだ」とオーワードは語った。佐藤琢磨は47周目にクラッシュしてレースを終えた Photo:Penske Entertainment (Chiris Owens)クリックして拡大
期待通りのパフォーマンスを見せられなかったのは、ポールを獲りながらレースでは目立つことのなかったローゼンクイスト、序盤にしてアクシデントでリタイアした佐藤琢磨(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)、スコット・マクロクリン(チーム・ペンスキー/シヴォレー)、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー/シヴォレー)たちだろう。ローゼンクイストは1周のアタックでは究極の速さを実現できるのに、1スティント、あるいはそれ以上のスパンで速さを持続できるレースが少ない。琢磨は新チームでの初レースでできる限りの情報、経験を得たかったが、それを果たせなかった。様々な要素が絡んで起こったアクシデントだったが、パワーの大幅ペースダウンはあの少し前に始まっていて、多くのドライバーが彼をパスして前進していた。犠牲者となったのは琢磨だけ。周囲の動きを把握し、少し先の展開を想定して障害物を冷静に処理して行って欲しかった。走り続けることができていたら、琢磨はチームメイトたちとトップ5を競い合うことができていたはずなので。オーワードとニューガーデンの速さに比べ、彼らのチームメイトたちは上位での争いに加わることができていなかった。その差はどこにあったのか???
アレクサンダー・ロッシはピットでのアクシデントに遭って戦線離脱に近い状況となり、スピードを見せるチャンスを失ったが、マクロクリンとパワーはニューガーデンと比べてあまりにも遅かった。
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今年のインディー500は今回のテキサスと似たエアロ・コンフィギュレイションが採用される。昨年のインディーで速かったのはガナッシとマクラーレン。今年のインディー500ではそこにペンスキーが絡んで来ることになるのだろうか?
アンドレッティのパフォーマンスはどのレヴェルになるのか? ロング・ビーチとバーバーの間に行われる合同テストが楽しみになった。
以上
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