昨年のウイナー、エリクソンは今回のオープンテストでも積極的に走行し、156周で最多ラップとなったPhoto:Penske Entertainment (Joe Skibinski)クリックして拡大 |
今回最も周回を重ねたのはエリクソンとヴィーケイ
4月20日にインディアナポリス・モーター・スピードウェイの2.5マイル・オーヴァルで第107回インディアナポリス500マイル・プレゼンテッド・バイ・ゲインブリッジ向けの合同テストが行われた。今回はそこでの周回数のデータを見てみよう。
テストは2日間の予定だったが、1日だけで終了とされた。テスト日程が近づいた時、悪天候に見舞われる可能性が高いと判明。インディーカーは1日目の走行時間を90分長くする措置を執った。そして、心配された通りに2日目は雨でキャンセルに。各エントラントは1日目をどれだけ有効に使えたのだろうか。
今回のテストでこなした周回数をまずはドライヴァー別に、多い順に並べる。名前の後ろは午前、午後の周回数で、ルーキー及びリフレッシャー用セッションでの彼らの周回数はカウントしないこととした。
156周 マーカス・エリクソン 36周+120周
リナス・ヴィーケイ 44周+112周
150周 デイヴィッド・マルーカス 59周+91周
146周 スコット・マクロクリン 37周+109周
145周 コナー・デイリー 26周+119周
139周 クリスチャン・ルンドガールド 28周+111周
126周 エド・カーペンター 35周+91周
124周 ジャック・ハーヴィー 27周+97周
123周 アレックス・パロウ 27周+96周
123周 ウィル・パワー 38周+85周
115周 ジョセフ・ニューガーデン 22周+93周
113周 グレアム・レイホール 32周+81周
110周 パト・オーワード 31周+79周
106周 ステファン・ウィルソン 106周
104周 アレクサンダー・ロッシ 31周+73周
102周 サンティーノ・フェルッチ 30周+72周
101周 エリオ・カストロネヴェス 26周+75周
91周 スコット・ディクソン 33周+58周
87周 フェリックス・ローゼンクイスト 32周+87周
86周 シモン・パジェノー 39周+47周
81周 佐藤琢磨 33周+48周
73周 スティング・レイ・ロブ 73周
64周 ロマイン・グロジャン 11周+54周
62周 ベンジャミン・ピーダーセン 62周
60周 コルトン・ハータ 31周+29周
59周 デヴリン・デフランチェスコ 23周+36周
ライアン・ハンター-レイ 59周
48周 カイル・カークウッド 5周+43周
40周 トニー・カナーン 40周
38周 アグスティン・カナピーノ 38周
33周 キャサリン・レッグ 33周
31周 カルーム・アイロット 21周+10周
23周 マルコ・アンドレッティ 23周
昨年度ウィナー=マーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)が最多ラップとは……ある意味意外な結果だ。若手のドライヴァーたちが、少しでも経験を積もうと走り回るケースが多いので。この日のエリクソンは与えられたプログラムを意欲的にこなして行った印象で、彼と彼のクルーたちのモーティヴェイションの高さ、そして自信も感じられた。エリクソンと同数だったリナス・ヴィーケイも精力的に多くのラップ数を重ねていた。彼らのチーム、エド・カーペンター・レーシング/シヴォレーも雰囲気が良かった。
チーム別周回数ではチップ・ガナッシがトップに!
エド・カーペンター・レーシングは3台体制にして4台体制チームに匹敵する周回!
彼らとは反対に、ヴェテラン用の2セッションを走りながら周回が少なかったのはカルーム・アイロット(フンコス・ホリンジャー・レーシング/シヴォレー)、カイル・カークウッド(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)、デヴリン・デフランチェスコ(アンドレッティ・スタインブレナー・オートスポート/ホンダ)、コルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート・ウィズ・カーブ・アガジェニアン/ホンダ)、ロマイン・グロジャン(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)といった面々。アンドレッティ本家の全員がここに入っている。佐藤琢磨(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)も周回数が少ない部類に入った。次はチーム毎の周回数を見て行こう。
ガナッシ 451周
アンドレッティ 441周
カーペンター 427周
レイホール 409周
ペンスキー 384周
マクラーレン 341周
コイン 223周
ドレイヤー 165周
フォイト 164周
フンコス 69周91周とやや少なめなラップ数の周回にとどまったディクソンだが、驚くべきことに、このテストで駆ったマシンは本番用ではない! という Photo:Penske Enteratainment (Walt Kuhn) クリックして拡大
チーム別でも昨年度ウィナーが最多だった。ドライヴァーのライン・アップを見ても、ガナッシは4人と多い上に出場チームの中で最もクォリティは高い。優勝経験者が3人いて、彼らの優勝回数の合計は4回。残る1人も一昨年に優勝争いをしての2位フィニッシュを記録している。興味深いのは、今回のテストでディクソンの走らせたマシンは彼のインディー500本番用ではない点。細部まで徹底的に作り込んでいる、とっておきの車体はまだワークショップにあるのだ。
世代交代の最中で意外にもインディー500経験の浅いアンドレッティ勢
メイヤー・シャンクのウイナー2人のフィードバックが頼り?
ひとりひとりの周回数が少なかったけれど、アンドレッティ勢はドライヴァーの数でそれをカヴァーして2番手。とは言うものの、マルチ・カー体制の元祖である彼らはインディー500でのスピードに長いこと定評があったのに、今年のライン・アップには以前のような凄みが感じられない。提携するメイヤー・シャンク・レーシングのふたりがいずれもインディーでの優勝経験者で、彼らの合計勝利数=5は出場チーム中の最多だった。それは事実。しかし、2021、2022年シーズンを終えてライアン・ハンター-レイ、アレクサンダー・ロッシが続けてチーム離脱。本家から出場する5人にインディーでの優勝経験者はいなくなっており、オーヴァル・レースでの優勝もマルコ・アンドレッティによるアイオワでの1勝だけ(!)。それも2011年と遠い昔の話だ。世代交代が進行中の彼らは今年のストリート2戦で速さを見せてきているが、“インディー500は今年が2回目”というドライヴァーがライン・アップに3人もいることもあり、大きな期待は難しいかも。テストではMSRからエントリーするヴェテランふたりが奮起して多くのラップを重ねていたが、本家は風の強いコンディションを嫌って走行を抑えていたようだった。5月のプラクティス本番が天候不良で走れない日々になることも有り得るので、走れる時に走り、できる限りのデータ収集に努めるのがセオリーだ。もちろん、どのチームもテストでクラッシュしてマシンもクルーも疲弊……という事態は避けたい。アンドレッティの場合はMSRのヴェテランたちのフィードバックに今回は頼ることとしたのだろう。
インディー500優勝を悲願とするエド・カーペンター・レーシング/シヴォレーは3人のドライヴァー全員が精力的に走り込んでいた。予選での速さに定評のある彼らは、レース・セッティングでのスピードと安定感の両立を目指しラップを重ね、その数はシヴォレー・エンジン・ユーザー内で最多となった。「マシンは速く、多くのデータも得られた。良い発見もあった」とドライヴァーたちはポジティヴなコメントを残していた。
4番手はインディー・オンリー、そして今回のオンリー女性ドライヴァーとなるキャサリン・レッグを走らせるレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング/ホンダ。3台を走らせた昨年、予選が21、31、32位、決勝も14、18、24位という結果しか残せなかった彼らは、4カーへの規模拡大ではなく、3台体制をライヴァル勢と同じレヴェルで機能させることをまずはテーマに据えるべきと見えている。台数を増やせばデータは増えるが、抱えた4人のドライヴァーのうちの2人からはハッキリ言ってクォリティの高い情報を期待しにくい。ひとりはインディーカー・デビュー2年目で、それ以前にオーヴァルでの経験を一切持たないクリスチャン・ルンドガールドで、もうひとりは2013年以来と超久しぶりで通算3回目の出場を行うレッグだからだ。
堅実にテストをこなした印象のペンスキー
マクラーレンは独自の空力アプローチにトライシェルカラーのニューガーデンが、シェルのロゴが記されたストレートエンドスタンドの前を駆け抜けるPhoto:Penske Entertainment (Joe Skibinski)クリックして拡大
テストでの最速ランナーを出したチーム・ペンスキー/シヴォレーは、ウィル・パワーとスコット・マクロクリンの二人も多くの周回を重ね、出場チーム中で5番目に多いラップ数を記録した。2日目がキャンセルとなる可能性にきっちり対応していたと言っていい。ニューガーデンはドラフティング利用で”ビッグ・ナンバー”を出していたが、パワーとマクロクリンは実利主義に徹し、1ラップのスピードには拘らず、用意されていたテスト・アイテムを着実にこなして行ったようだった。ニューガーデンはインディー500未勝利で、マクロクリンは今年が3回目のインディー500だが、フル稼働した3人のドライヴァーたちは「大きな成果が得られた」と口を揃えていた。
ローゼンクイストのマシンは、マルボロカラーを想起させるカラースキームに Photo:Penske Entertainment (James Black)クリックして拡大 |
マクラーレンの周回数合計は6番手の341周。インディー500での優勝経験を持ち、ブリックヤードでのスピードにも定評があるアレクサンダー・ロッシを今年からレギュラー・ドライヴァーとして走らせている彼らは、大ヴェテランのトニー・カナーンをインディー500にスポット参戦させ、昨年より更に一段も二段も参戦体制を強化している(昨年はレギュラーのオーワードとローゼンクイストに加え、インディー500・2勝のファン・パブロ・モントーヤを起用)。そのカナーンはリフレッシャーであるため、今回は体をスピードに馴染ませるための走行に留めた。それもあってマクラーレンの周回数は3台体制のペンスキーより少なくなった。一昨年、昨年とオーワードがインディー500で続けてトップ3に入り、テキサスでは2年連続ポール・ポジション獲得などマクラーレンは高速オーヴァルでのマシンをトップ・レヴェルのものに仕上げている。しかし、今回のテストでは誰ひとりとして上位に来なかった。それは1日だけで終わってしまったため……という面もあるのかもしれないが、彼らが“トウを使ってのビッグ・ラップ”を記録しないよう気を配っていたようにも見えていた。
マクラーレンについては、気づいたことがもうひとつあった。彼らはリヤ・ウィングとフロント・ウイング・エクステンション上にガーニー・フラップ(=ウィッカー)を装着せずに走るケースがほとんどだった。ライヴァル勢はほぼ全チームがそれらを装着していたが。今回のテストに臨む大方のチームは、「新エアロ・パッケージでのレース・セッティングのベースを固めるための第一歩としたい」と考えだったはずだが、タービュランス内でマシンを安定させるのに効果的と考えられているリヤ・ウィング上のウィッカーをマクラーレンが使わなかった理由は? なるべくシンプルな状態で走らせて新エアロの基本データを採りたいということだったんだろうか。細かなエアロ・パーツ装着での走行は2日目に行うつもりだったのかもしれないし、アンダー・トレイとバージ・ボードのコンビネイションでそこはカヴァーする方針……と推測することもできる。昨年のインディー500で2、3、4、5位だったドライヴァーを覚えているだろうか? それらはオーワード、カナーン(ガナッシ)、ローゼンクイスト、ロッシ(アンドレッティ)だった。彼ら4人のうちの一人が今年のレースではトップでゴール……。その可能性は決して低くはない。
デイル・コイン・レーシングのマシンには以前からスピードがあり、琢磨が去年走ったことでセッティングのアップデイトもされている。昨シーズン中に急成長を遂げたデイヴィッド・マルーカスが精力的に走り込み、トップ12に食い込むスピードを出していた。ルーキーのスティング・レイ・ロブはヴィーケイにターン3でインを奪われた際にラインを外れ、アウトサイド・ウォールにぶつかりそうになったが、無事にセイヴ。21歳のコンビがマンス・オヴ・メイにどんなパフォーマンスを見せるか楽しみだ。
AJ・フォイト・エンタープライゼス/シヴォレーは、レギュラーに復活したサンティーノ・フェルッチとルーキーのベンジャミン・ピーダーセンのコンビ。フェルッチはオーヴァルで“何か特別なもの”感じさせることの多いドライヴァー。コイン時代に組んでいたヴェテラン・エンジニアのマイケル・キャノンが今年からフォイトのテクニカル・ディレクターに就任しているのも彼にとっては大きなプラスだ。
6番手タイムをマークしたウイルソンと優勝経験者ハンター‐レイのドレイヤーにも注目
オープンホイールレース初参戦のオールド・ルーキー、カナピーノ。初オーバルレースの第2戦テキサスを12位で完走し、驚異的な適応力を見せたが、果たしてインディー500はいかに? Photo:Penske Entertainment (Joe Skibinski)クリックして拡大 |
フンコス・ホリンジャー・レーシング/シヴォレーは、エントリー中で最も歴史が浅く、インディー500での経験も最も少ない。それはドライヴァーも同様だ。イギリス出身でオーヴァル・レースは昨年から……というカルーム・アイロットとオープンホイールでの経験も今年のインディーカーからというルーキーのアグスティン・カナピーノ=オーヴァル走行はテキサスでのテスト、テキサスでのレースに続いて今回が3回目=インディアナポリス・モーター・スピードウェイは初めてというコンビネーションなのだ。インディー500を戦うにはかなり厳しい体制だが、今年の彼らはストリート2戦でチーム史上ベストの走りを見せて来ている。カナピーノもインディーカーへの習熟を短時間で進めている。しかし、今回のテストで2人合わせての周回数がAJ・フォイト・エンタープライゼス/シヴォレーの半分にも満たない69周というのは、避けるべき事態だった。バーバー・モータースポーツ・パーク、インディーのロードコースと連戦を控えている状況下、マシンを壊すことは絶対に避けたい彼らだが、焦らず、欲張らず、無理もせず、という姿勢では戦闘力向上を実現するのも難しい。
インディーのみの参戦をもう何年も続けて来ているドレイヤー&レインボールド・レーシング/シヴォレーは、故ジャスティン・ウィルソンの実弟ステファンと、2014年インディー500ウィナーのハンター-レイを起用する2カー体制。今回のテストでは、当然二人のドライヴァー両方がリフレッシャー・プログラムで走行を開始。それに続いたテスト・セッションに加わったのだが、ウィルソンが225.960mphという素晴らしいスピードを記録して6番手(!)につけ、ハンターーレイも14番手 というポジションで走行を終えた。今年の彼らはひと暴れする……かもしれない。
以上
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