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スタート直後にマルチクラッシュ発生
赤旗中断でレースは波乱の幕開けに
シーズン最初のレースは、スタート直後に多重クラッシュ発生。横を向いて止まったデヴリン・デフランチェスコ(アンドレッティ・スタインブレナー・オートスポート/ホンダ)のマシンにベンジャミン・ピーダーセン(AJ・フォイト・エンタープライゼス/シヴォレー)がハイスピードでノーズからヒット! それはデフランチェスコ車がロールバーの高さ以上に高く飛び上がる衝撃的アクシデントで幕を開けました。1周目にしてサンティーノ・フェルッチ(AJ・フォイト・エンタープライゼス/シヴォレー)、エリオ・カストロネヴェス(メイヤー・シャンク・レーシング/ホンダ)、シモン・パジェノー(メイヤー・シャンク・レーシング/ホンダ)もリタイア。スティング・レイ・ロブ(デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR/ホンダ)、フェリックス・ローゼンクイスト(アロウ・マクラーレン/シヴォレー)もこのアクシデントでマシンにダメージを受け、後退を余儀なくされました。
42周目にヴィーケイとクラッシュし撤去されるハーヴィーのマシン。この時点ですでに7台がレースを終えた Photo:Penske Entertainment (James Black)クリックして拡大 |
42周目のターン4、リナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター・レーシング/シヴォレー)がジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー/シヴォレー)にインを奪われ、アウト側でラインを外れてタイヤ・バリアの餌食に。スタックしたマシンにジャック・ハーヴィー(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング/ホンダ)が激突。そこへ到達したカークウッドがハーヴィーのリヤ・タイヤに乗り上げてしまってジャンプ! 2台を飛び越えてランディング……と、こちらも派手なアクシデントになりました。ニューガーデンはヴィーケイにタッチはしなかったようです。
パワーとハータが接触! ハータのみクラッシュ&リタイア
その後のアクシデントは今回のポイントのひとつでした。レースの折り返し点である50周目に切られたリスタート直後のラップで、コルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート・ウィズ・カーブ・アガジェニアン/ホンダ)とウィル・パワー(チーム・ペンスキー/シヴォレー)が絡み、ハータがタイヤ・バリアに突っ込んでレースを終えたのです。スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)がチームメイトのマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)をパス。パワーはそれに乗じてエリクソンをターン5で抜きにかかったのですが、エリクソンが踏ん張り、逆にアウト側へと押し出されたパワーが失速。すぐ後にいたハータがターン6〜7でパワーに並びかけ、先行しました。しかし、イン側で粘っていたパワーはターン8での優先権を主張。両車はぶつかり、ハータだけがリタイアとなりました。
「あのライン採りで来られたらどうしようもない」とハータは失望
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「(相手より)自分の方がかなり前に出ていたと思っていたのに……」とリタイアしたハータは不満顔でした。「あのライン採りでは、こちらとしては壁にぶつかる以外にないですよね……」とやるせない表情でハータは語りました。シリーズ・ポイントを10点しか稼げなかったのだから当然です。“タイトルを二度も獲得しているヴェテラン・ドライヴァーが、なぜあぁいう走りをするのか……”とハータは理不尽さを強く感じていた様子でした。
彼が考えていた通り、あのアクシデントはパワーの側に非があったと思います。インディーカーは彼のドライヴィングにペナルティを課し、その裁定にはドライヴァーからもチームからも反発はありませんでした。
「申し訳ない」と語りつつもパワーは優先権を主張
パワーのレース後のコメントは以下のようなものでした。
「あのコーナーへ我々はぶつかりながら入って行きました。私はインサイドのラインで、最大限の運がこちら側にありました。彼の一日を台無しにしてしまったことを心苦く思います。しかし、あの時に私は、“彼は私があそこにいたことを知っている”と確信していたんです。彼のインサイドで私は少しアンダーステアが出ました。インに無理やりダイヴしたわけではありません。私はインにいて、彼はアウトサイドにいました。誰かの一日を台無しにすることは、私がとても嫌いなことです。それは本当です。彼らとはクリーンに戦いたいと考えています。彼も私とのバトルはクリーンに戦ってくれています。だから、今回の結末については申し訳ないと感じています。彼はリタイアとなり、私は走り続けることができました」。
“冷静な走り”でタイトルを奪還したパワーだが、開幕早々チャンピオンらしくない走りでハータをやっつけてしまった。ペナルティを受け同一周回最後尾の14位まで落ちたのち、9位まで順位を押し上げたが、なんとももったいないレースとなった Photo:Penske Entertainment (Joe Skibinski)クリックして拡大 |
“私はインにいた。優先権はこちらにあったのだから、私は悪くない”というのがパワーの考えということです。しかし、それが正しい認識でないからこそ、ペナルティは彼の方に課されました。今回のインディーカー・オフィシャルの裁定は正しかったと思われます。“ライバルの1日を台無しにするのは嫌”。という部分は、きっと彼の本心なのでしょう。昨シーズンに大きな変化として現れていた、“パワーの大人な戦いぶり”と同調しているコメントでした。ただ、今回の彼の行動は、その本心とは真逆になっていました。根っからのファイターである彼は、“抜かれたくない”、”抜かせない”という条件反射で本心と正反対のアクションを起こしてしまった……ということか、と。パワーはリスタートで前車に引き離されていたように見えてもいました。ウィングを立ててタイト・セクションでアドヴァンテイジを得るストラテジーだったため、ターン4〜9辺りでパスされることは許せなかった。それで判断をミスり、無理なドライヴィングをしてしまった……ということだったのかもしれません。その結果、チャンピオンシップで大きな痛手を被ったのがハータ、というのは何やら納得しにくい結末になってしまいましたね。
“ぶつかりながら入って行った”……とパワーは振り返っていました。決定的なコンタクト直前に複数回の接触があったことを彼は覚えていた。つまり、冷静さを欠いてたわけでもなかったんですよね。ただ、レース後に彼が語った彼自身の現実の捉え方は、少々自分に都合の良過ぎるものになっていました。あれは”2台がぶつかりながら”ではなく、パワーの方がハータに”複数回ぶつけながら”コーナーに入って行ったのでした。しかも、ハータ方が明らかにパワーの前に出ていました。
タイヤマネジメントでチームメイトのグロジャンとの差
ハータがひと皮むけるためには勝負への執念も必要
予選2位だったハータは、グリーン・タイヤでの走りでポール・スタートだったチームメイトのロマイン・グロジャン(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)に7秒以上も引き離されました。まずはそのことをおおいに反省すべきですね。ファースト・スティントでの大きな遅れによって、彼はパワーと争う事態に陥りました。あの遅れの原因は、トップに立ちたくてプッシュをし過ぎ、タイヤのライフを縮めてしまったということなのか、グリーン向けのセッティングがグロジャンより悪かったということなのか、もう1ステップ高い段に行くには分析、改善がマストですね。
“自分は貧乏くじを引かされた”とハータは感じているようでした。実際にそうした面はあったと思います。ただ、あの後に彼ってパワーのところに文句を言いに行ったり、相手と膝を詰めて話し合ったり……とかをしたんでしょうか? それをしないと、状況が改善されない気がします。彼のチームのオーナー、マイケル・アンドレッティもそういうことをしないタイプの人でした。レーシング・マシンを速く走らせる才能はあるけれど、荒々しい性格ではないんですよね、ハータは。見ての通り。寡黙でシャイなキャラクターで、多くのライヴァルたちに”ぶつかっても大丈夫なドライヴァー”と認識されているのでは? と心配になります。”アイツにはぶつからない方が賢明”と思わせるぐらいでないと、今後も損な役回りを押し付けられることになっちゃう可能性があります。もちろん、ストック・カー業界のようにな復讐(それも次のレースで……とか、暫く経ってからのレースで……とか)には100パーセント反対です。リヴェンジをある程度まで容認する気質、報復を見て溜飲を下げるチーム関係者やファンのいるところはストックカー業界の闇ですらあります。あんなことをやり出したら、スポーツじゃなくなっちゃいます。第一、危険過ぎますよ。ハータとすれば、”ブッチギリの速さによって勝ちまくれば、そんなことはしないで済む”という気高い理想を掲げてるのかもしれませんが……。
首位争いの2台がターン4で一気にクラッシュ
次に取り上げるのは、72周目のターン4で起きたグロジャンとマクロクリンのアクシデント。レースがファイナル・スティントに入った時点、優勝を争っている1、2番手が接触(!)
片方だけではなく、両車ともにクラッシュするという衝撃的かつ、かなり珍しいアクシデントでした。
アクシデントに至る直前、前を走っていたのはマクロクリンでした。彼にアウトサイドからパスを仕掛けたのがグロジャンで、彼の方がやや先行した状況となっていました。
少し話を巻き戻しますと、マクロクリンはピットから出てきたばかりで、グロジャンは1周前にピットしていました。タイヤは両者ともブラックを装着していましたが、グロジャンのものは1周走った分だけ温まっており、マクロクリンの方は完全なコールド・タイヤで、グロジャンがアタックしたのです。
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1回目のピット・ストップ後もほぼ同じ状況でした。ピットから出てきたマクロクリンにグロジャンが急接近。マクロクリンはインのラインを封じてトップの座を守りました。マクロクリンのタイヤはグリーンで、グロジャンはブラックを履いていました。
それに対してアクシデントの時は、マクロクリンとグロジャンの距離が前回よりも近かったですね。マクロクリンはこの時も相手にインを取らせないためのラインを採用。しかし、グロジャンとのスピード差は前回よりも大きく、グロジャンはアウトからパスをしに行き、コーナーに入ったところで両者は接触しました。
マクロクリンはミスを認め素直に謝罪
マクロクリンのコメント。「ロマインに対して大変申し訳ない気持ちです。彼は私の友人です。あの時、私たちは二人とも勝ちを意識して戦っていました。そして、私が大きなミスを冒したのです。私はコールド・タイヤで無理をしました。ブラック・タイヤではあのコーナーのインサイドでグリップを確保できませんでした。前のピット・アウトでグリーン・タイヤを装着した時のようなグリップが得られなかったんです。その結果、リヤをロックさせ、私たちのホイール同士がコンタクトし、2台揃ってクラッシュ。私はあのような戦い方を良しとしていません。謝ります。すぐにロマインに会いに行きます」……と完全に反省モード。正直者ですね、マクロクリンは。彼のオンボード・カメラの映像、ぶつかる直前にカウンター・ステアリングを切ってました。グリップを失ってラインをホールドできなかったことがわかります。6番手スタートだったマクロクリンは、上位陣と異なるタイヤ・ストラテジーでまんまとトップに躍り出、2年連続優勝に大きく近づきました。それを叶えるためにはトップを守りたい。その考えが冷静な判断を妨害してしまいました。
マクロクリンの前に出たい気持ちを見誤ったグロジャン
速さはあるが、勝利には結びつかないグロジャン Photo:Penske Entertainment (Joe Skibinski)クリックして拡大 |
これらのレース結果に大きな影響を与えたふたつのアクシデントは、奇しくも両方がアンドレッティ・オートスポートとチーム・ペンスキーのドライバー同士がぶつかるものでした。そして、どちらのケースでも不運な結果を掴まされたのはアンドレッティ勢のドライヴァーでした。そして、勝利の美酒を味わったのはチップ・ガナッシ・レーシング。今年のアンドレッティ軍団は戦闘力を高めているように見えていますが、それを開幕戦ですぐさま結果に結びつけることは叶いませんでした。
ということで、開幕戦を見ての感想は、過去2シーズンでマクラーレンが大きく力を伸ばしているが、今年はアンドレッティが競争力を回復しつつあるな、というものでした。開幕戦前のテストで見られた兆候が現実化している感じですね。ガナッシ&ペンスキーの二強にアンドレッティがマクラーレンともども挑んで行って四つ巴の戦いになる。これは本当に楽しみです。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング/ホンダ、エド・カーペンター・レーシング/シヴォレー辺りもレヴェル・アップして来そうですから、2023年のインディーカー・シリーズは空前絶後のコンペティティヴ・シーズンとなりそうです。
以上
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