2023年3月16日木曜日

2023 INDYCARアナリシス R1 ファイアストン・グランプリ・オヴ・セイント・ピーターズバーグ:開幕戦振り返りその1 開幕戦のタイヤ・ストラテジー

“グリーン・タイヤ” 初見参

 まず最初に書いておきます。今回のレポートでは、インディーカー・レースで使用されるタイヤの種類について、省略形を使った方が便利な時は、プライマリー・タイヤを“黒”、“ブラック(・タイヤ)”と表記し、サイドウォールにグリーンのリボンが貼られるオルタネート・タイヤは “緑”、“グリーン(・タイヤ)”と表記します。あの緑のリボン、走り出しちゃうとプライマリーの黒いタイヤとの識別が難しくて困るんですけど、ブリヂストン・ファイアストン社の画期的技術=グアユールという北米産植物を原料としたラバーのレーシング・タイヤへの導入には敬意を表します。第3戦ロングビーチからも同様の表記としますが、グアユールを使っていないオルタネート・タイヤが供給されるレースでは昨年までと変わらず、それらを“赤”、もしくは“レッド(・タイヤ)”と書きます。それらのタイヤはサイドウォールのリボンが赤ですし……ね。

緑ー黒ー黒だったウィナー、エリクソンと2位オーワード

 今回のテーマは、2023年開幕戦ファイアストン・グランプリ・オヴ・セイント・ピーターズバーグでのタイヤ・ストラテジー。優勝したマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)と2位フィニッシュしたパト・オーワード(アロウ・マクラーレン/シヴォレー)のタイヤ投入パターンは、緑ー黒ー黒の順でした。エリクソンは予選4位でオーワードは予選3位。インディーカーのレースに2種類のタイヤが供給されるようになった2009年シーズン以来、上位のスターテイング・グリッドからスタートする面々は序盤戦に順位を下げないようにとソフト・コンパウンドのオルタネートでスタートするのが主流で、15シーズン目の開幕戦でもそれは大きく変わっていなかったということです。ただ1台を除いて。

ブラックタイヤでスタートしたマクロクリン
第1スティントを長くとる作戦でそのままトップをキープ

 レースがほぼ3分の2まで進んだ時、優勝争いをしていたのはスコット・マクロクリン(チーム・ペンスキー/シヴォレー)とロマイン・グロジャン(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)でした。グロジャンは王道のタイヤ戦略だったのに対し、予選6位だったマクロクリンはセオリー破りの“黒”スタートとしていました。その彼がファースト・スティントを35周と長くしてトップに立った上、グリーンを履いたセカンド・スティントを終えてもトップをキープしました。さすがは前年度ウィナーという走りで、今年もプライマリーとオルタネートの両方でトップ・レヴェルの、しかも安定した速さを獲得していたのが彼で、作戦でもチーム・ペンスキーはライヴァル勢を凌駕していました。惜しいレースを落としましたね、マクロクリン。

3位フィニッシュのディクソンも黒ー緑ー黒
ただし、緑スタートの上位陣の多くはクラッシュで脱落
黒と緑の差は実は小さかった!

 3位でゴールしたのはスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)。9番手と決して良くはないグリッドからのスタートだったっこともあり、彼はブラック・タイヤを最初のスティントに投入し、マクロクリンと同じく、その先を緑、黒と繋ぎました。予選22位から5位までと今回最多のポジション・ゲインを果たしてゴールし、キャリア初のトップ5フィニッシュを記録したカルーム・アイロット(フンコス・ホリンジャー・レーシング/シヴォレー)も黒ー緑ー黒。予選12位から4位でゴールしたアレクサンダー・ロッシ(アロウ・マクラーレン/シヴォレー)、予選20位から6位とアイロットに次ぐ順位アップをしてみせたグレアム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング/ホンダ)もタイヤの投入順は黒ー緑ー黒でした。彼らは上位陣と異なる作戦を採用して成功を手にしたわけですが、実際にはPPだったグロジャン、予選2位だったコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート・ウィズ・カーブ・アガジェニアン/ホンダ)、予選5位だったカイル・カークウッド(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)、予選6位だったマクロクリン、予選8位だったフェリックス・ローゼンクヴィスト(アロウ・マクラーレン/シヴォレー)がアクシデントで脱落したのも事実で、最も効果的なタイヤ戦略だったとまでは言えないでしょう。今回のレースではブラックとグリーンの性能差は小さく、ほぼ全エントラントがロング・ディスタンスでの安心感がやや高いブラックを2スティントで使っており、グリーンをレースのどこで使うかが明確な差を作り出す事態とはなっていませんでした。

緑を2セット投入したパワーも不発
ファステストラップは68周目にパロウが黒で記録!


 3スティントのうちの2スティントでグリーンを使ったのはウィル・パワー(チーム・ペンスキー/シヴォレー)だけといっていい状況でした。アクシデント多発=リスタートが連続……というレース展開となれば瞬発力の高いグリーンを履く彼のチョイスは悪くなかったようにも見えましたが、現実を見ると彼が最終スティントでブラック装着勢に対してのアドヴァンテイジを持ってはいなかったようです。ブラック装着のハータにバトルを挑まれていたぐらいで……。
 ということで、勝手にベスト・ストラテジー&パフォーマンス賞を設定するなら、今回のウィナーにはマクロクリンとチーム・ペンスキーを選出したいですね。予選は6位。上位のスタート・ポジションながら”ブラック”で走り始めることを彼らは選択し、狙い通りにファースト・スティント終盤にトップに立ちました。中盤戦のグリーンでの走行でもスピードは十分で、トップを守って終盤戦に入ったのですが、みなさんご存知の通り、コールド・タイヤでグロジャンのアタックを跳ね返すことに失敗という結果になりました。
 最後に、参考までに……ですが、グロジャンのポール・ポジション・ラップは59秒5532で、レース中のファステスト・ラップはアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)による1分01秒0564でした。計測されたのは68周目で、装着タイヤはソフトのグリーンではなく、ハードのブラックでした。


オルタネート1セット増の新レギュレーションを
生かした新しいタイヤ戦略はいつ生まれる?

 今年からの新ルールで、オルタネート・タイヤは去年までより1セット多い5セットが使えることになっています。予選までに4セット、予選後に1セットが供給され、プラクティス2終了後に返却しなくてはならないのは1セットのみ。予選で使ったオルタネートは昨年までと同様にレースにも使えるルールなので、ユーズドの状態のものも含めればレースに4セットのオルタネートを投入できます。今回はプライマリーをメインとして使用したチームが多かったのですが、今後はオルタネート3連投……なんていう戦略が威力を発揮するレースも見られるかもしれません。
以上

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