2022年12月25日日曜日

2022 INDYCARレポート12月25日:メリー・クリスマス! 

2022年も押し詰まってきたところで、オフのニュースをお届けします。

新エンジン投入は消滅

 NTTインディーカー・シリーズは来年=2023年シーズンから新設計の2.4リッターV6ツイン・ターボ・エンジン+ワンメイクのハイブリッド・システムというパワートレインを採用するはずだったのですが、コロナ禍による物流停滞を主な理由として新パワーへの移行を2024年へと先送りしました。

 新エンジン導入は遅らせるものの、ハイブリッドへの移行は予定通りに2023年から行う、とインディーカーは胸を張っていました。現行の2.2リッターV6ツイン・ターボ・エンジンとマッチングさせるというアイディアによって。
 第二のパワー・ソースがプラスされれば当然パワーが上がるので、コンペティションは大きく様変わりし、今まで以上にハイ・スピードでエキサイティングなバトルが展開されるもの……との期待が世間では膨らんでいました。ホンダとシヴォレーが供給してきている信頼性の確立された現行エンジン使用なら、電気モーター&バッテリーなどと新たに組み合わせたシステムの熟成が着実になされる、なんていうメリットも見出すことさえできていました。

 ところが、今度はハイブリッド化も2024年に延期されました。
 インディーカーが全車共通のハイブリッド・システムの生産及び供給を依頼したのはドイツのマーレー社でしたが、コロナ・パンデミックの悪影響により、彼らは製品を2023年の開幕に間に合わせることができなかったのです。
 ピストンのマニュファクチャラーとして名を馳せたマーレーは、ドライブトレインやエレクトロニクスの分野に業務拡張してきていましたが、メジャー・シリーズへのレース専用スペック・ハイブリッド・システムの供給という、大きく新しいチャレンジでは躓いてしまった……ということのようです。インディーカー側にも非はあります。サプライヤーがタイム・テーブルの通りに開発、生産を行うようコントロールをすることができなかったのですから。

 延期、延期と来た次は驚きのニュースでした。2022年も暮れに入ったところで、インディーカーは新エンジンの導入を諦めたんです。
 今年の3月でしたよね? インディアナポリスのロードコースでホンダとシヴォレーが新エンジンの実走テストを行ったのは。そこまで進められていたプロジェクトが突然の”お蔵入り”とは、かなりショッキングな決断です。

 ただし、これはインディーカーがエンジン供給を行うホンダ、シヴォレーの両社と協議をして導き出した結論です。COVID-19のパンデミックが世界の経済、企業に与えた影響は非常に大きく、インディーカー・シリーズ出場2メーカーも将来に向けた長期的プランを再検討しました。新エンジン導入と同時に三番目のメーカーが参入して来てくれれば、各社はエントリー数の3分の1にエンジンを供給すればよいため、経済的な負担を今よりも小さくできるはずでした。しかし、これからも暫くの期間はホンダとシヴォレーの2メーカーのみがサプライヤーであり続けることが判明。経済的な負担の大きさが想定を遥かに上回るものと見込まれたため、メーカー側も新エンジンを導入せず、現行エンジンを使い続ける案が採択されたのです。

 エンジン1基の年間リース料は100万ドル以上と高額ですが、開発にもメインテナンスにも膨大な費用がかかるため、自動車メーカーのインディーカー・プロジェクトが黒字にはなることはありません。この価格は出場チームが払えるギリギリの線に設定されています。自動車メーカー側は、最初から儲からないことを承知しつつ、得られる技術力や、宣伝効果を見込んでインディーカー・シリーズへの参戦を続けているのです。

 新エンジンは出て来ないことになり、ハイブリッドも1年先送り。このままだと新型シャシーの導入も2025年であっても実現しなさそう、と見えてます。

インディーカーの混乱を尻目に、IMSAは予定通り
2023年からトップ・カテゴリーをハイブリッド化


 インディーカーが先送りや断念をしているのとは反対に、スポーツカーのIMSAウェザーテック・チャンピオンシップ・シリーズのトップ・カテゴリーは2023年から予定通りにハイブリッド化されます。キャディラック、アキュラ、ポルシェ、BMWとインディーカーよりふたつ多い4メーカーのエンジンに1スペックのシステムで対応しなくてはならないのですから、その技術的ハードルはインディーカーより高かったはずですが、ボッシュとウィリアムズ・アドヴァンスド・エンジニアリングは課題をクリアし、サプライ・チェーンの問題も克服して供給体制を整えたということです。

 ほんの数年前まで、IMSAのトップ・カテゴリーであるDPi(デイトナ・プロトタイプ・インターナショナル)ではキャディラック、ニッサン、マツダ、アキュラが戦っていました。そこからニッサン、マツダが撤退したものの、新しいLMDh(=後にGTPに名称変更)というカテゴリー(ル・マン・デイトナ・ハイブリッド)創設を発表するとポルシェとBMWが新たにエントリー。アキュラとキャディラックが参戦を継続したので、4メーカー対決が復活することとなりました。三つ目のメーカーを獲得できなかったインディーカーとしたら、かなり羨ましい状況ですよね。
 LMDhが人気なのは、伝統あるル・マン24時間レースも含む世界スポーツカー耐久選手権(WEC)にも出場ができるマシン規定とされているからです。ヨーロッパにはLMH(=Le Mans Hypercar)というトップ・カテゴリーがあるけれど、欧米両サイドの2カテゴリーをひとつのクラスとして、混走で総合優勝を競わせるルールを彼らは採用したんです。
 LMDhを迎え撃つLMHカテゴリーで出てくる自動車メーカーは、2023年がプジョーとトヨタで、2024年にはフェラーリ、ランボルギーニ、アルピーヌも参戦してくることになっています。なんと魅力的なライン・アップ。全員出揃ったら、ここまでだけで9メーカーによる戦いとなるんですから、いやはや本当にすごい状況。素晴らしい。おおいに楽しみです。
 IMSAのGTPチームは、その多くがインディーカーでも戦っています。
 複数のチームを擁するキャディラックは、チップ・ガナッシ・レーシングがその一角を占めております。
 アキュラは2チームのうちのひとつがメイヤー・シャンク・レーシングです。
 そして、ポルシェはチーム・ペンスキー、BMWはレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングが完全なるワークス・チームとしての仕事を引き受けています。


チップ・ガナッシ・レーシングの4台目に乗るのは?

 ジミー・ジョンソンがインディーカー・シリーズへのフル参戦をギヴ・アップ。CARVANAのスポンサーシップも彼と一緒にチームを離れてしまいますが、彼らは2023年シーズンも4カー体制を保つ意向で、マーカス・アームストロングというF2ドライヴァーをロード&ストリートで走らせることと決めました。
 彼のマシンにオーバル5戦で乗るドライヴァーは、未だ発表されていません。トニー・カナーンはアロウ・マクラーレン(最近、チーム名からSPが外されました)からインディーに出ることになったので、空席を埋める候補として佐藤琢磨、ライアン・ハンター-レイというインディー500優勝経験者の名前がアメリカでは上がっています。しかし、琢磨はデイル・コイン・レーシング・ウィズRWR(オーヴァルのみの参戦になるだろう……アメリカでは言われています)、ハンター-レイはレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングからの出場となるでしょう。

 アームストロングはチームの大黒柱であるスコット・ディクソンと同じニュー・ジーランド出身。3シーズンを戦ったF2は3年ともランキング13位と今ひとつでしたが、2シーズン目に1勝、3シーズン目だった今年は3勝と実力を伸ばしており、22歳という年齢の割にハイ・レヴェルでの経験を豊富に積んで来ているので、インディーカーでも最初から好パフォーマンスを見せることができるとの期待が持てます。
以上
 

1 件のコメント:

  1. 琢磨選手の来季が、わからぬまま年を越すなんて…オーバルのみ参戦の噂があるみたいですがフル参戦の琢磨選手が見たい!祈るしかない…。早く、ファンを安心させてください。

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