Photo:Penske Entertainment クリックして拡大
予選で良好なパフォーマンスを発揮した佐藤琢磨
ただし、決勝日は想定よりも低い気温、路面温度に
ワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイ(通称ゲイトウェイ)での第15戦は佐藤琢磨(デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR)が期待を抱いて臨んだイヴェントだった。彼が2019年に優勝し、翌2020年にはポール・ポジション獲得と2位フィニッシュという好結果を残してきているコースだからだ。
予選は8位。アタック順がランキングの逆で、今回は時間の経過とともに気温が下がるコンディションだったため、早いタイミングで走った琢磨に不利となった。
決勝日は雨の予報によってスタート時刻が夕方5時半から30分ほど早められた。雨は昼間にも一度降り、レースのコンディションはゲイトウェイとは思えないほど“暑くない”ものになった。路面温度は金曜のプラクティス1が46〜50℃で、予選時が47〜51℃、ファイナル・プラクティスが35〜39℃だっだが、レース・スタート時には気温こそ30℃とそれなりに高くなっていたものの、路面の温度は42℃と最初から低かった。そしてもちろん、赤旗中断後からのレース再開時にはファイナル・プラクティスより10℃も低い29℃にまで冷え込んでいた。
ファースト・スティントでセオリーより20周ほど早くピット・イン!
アンダーカットに成功し127周目にトップに浮上
琢磨はファースト・スティントで7番手をキープ。セカンド・スティントでスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)をパスして6番手に上がると、103周で2回目のピット・ストップを行なった。これはセオリーよりも20周ほども早いタイミングだ。ショート・オーヴァルなので、ここでいったん1ラップ・ダウンに陥った琢磨だったが、コースの空いたところへフレッシュ・タイヤで出たことでライヴァル勢より明らかに速いペースでの周回を重ね、上位陣も2回目のストップを終えた127周目にトップに躍り出た。
残り115周、トップ出迎えたこのレース初のフルコース・コーション
一瞬の判断の遅れで絶好のピットインタイミングを逃す
この後、ジャック・ハーヴィー(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)がクラッシュ。もうレースが半分を終えているところで、ようやく最初のフル・コース・コーションが出された。琢磨のポジションはトップ。2回目のピットからすでに40周以上走っている状況で、ゴールまでは115周。フルタンクで走れるのは65周以上なので、ここでピットしてももう1回ゴール前に給油が必要だった。
ピット・オープンとなった148周目、琢磨はターン3のピット・ロード入口に近づきながら、ギリギリでコースに戻った。彼の後方ではウィル・パワー(チーム・ペンスキー)、パト・オーワード(アロウ・マクラーレンSP)、マーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)、アレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)が同じくステイ・アウトし、4、6番手につけていたスコット・マクロクリンとジョセフ・ニューガーデン(ともにチーム・ペンスキー)がピット・ロードへとステアリングを切った。
琢磨はイエローが出るや、「ピット・インするか?」とチームに無線で尋ね、「少し待ってくれ」という返答があった。暫くしてチームは「ピット・インだ!」という“正解”に辿り着いたのだが、それは一瞬遅かった。ピットに入るべきだろうと考えていた琢磨はピット・ロードに入る準備をしていたのだが、指示が間に合わずにコース側にラインを変えた。彼がギリギリのタイミングまで待ってチームの判断を仰いだとき、ピットからの指示が同時に飛んでいたようだ。
タイヤを新品に換え、燃料を補給してもマクロクリンは6番手、ニューガーデンは7番手でコースに復帰できた。ひとつかふたつポジションを下げただけ。ここはピット・インが正解だったのだ。結果論だろうか? パワー、オーワード、そして3人のガナッシ勢はトップを走る琢磨の動きに合わせ、いわゆる“フォロー・ザ・リーダー”でピットに向かわなかったのではなかった。自らステイ・アウトという作戦を選択していた。だからこそ琢磨が次のラップにピット・インしても、パワー以下はさらにステイ・アウトしてレースは再開された。
レース復帰後、佐藤琢磨はそれまでの勢いを失い9位まで後退
しかしここで2度目のアンダーカットはチョイスせず
トップ明け渡しは織り込み済みだったが、判断の遅れからふたつ余計にポジションを下げた琢磨。しかし、まだ優勝争いの一角にとどまることはできている。ところが、肝心のスティントで琢磨ににはそれまでの勢いがなかった。タイヤの内圧設定が狂っていたのか、俗に言う”ハズレのセット”だったのか、フレッシュ・タイヤのアドヴァンテージを使って一気に上位へ進出するはずが、ディクソンとパロウのガナッシ・コンビを抜きあぐねた。その間にマクロクリンはトップまで駆け上がり、ニューガーデンもリスタートから20周をかけて2番手までポジションを上げた。逆に琢磨はチームメイトのデイヴィッド・マルーカス(デイル・コイン・レーシング・ウィズHMD)に先行されて9番手にポジションを下げた。
ここでもう一度アンダー・カット……という手がデイル・コイン・レーシング・ウィズRWRにはあったのではないだろうか。ペースが上がらない理由がタイヤだと考えられるなら尚更のことだ。しかし、琢磨のチームはストレッチに舵を切った。ピット・タイミングを遅くすれば、最終スティントでよりフレッシュなタイヤを使う優位が得られると考えてのことだろう。彼のピット・ストップはマクロクリンより5周、ニューガーデンより4周後の211周目とされた。
雨による2時間10分の中断後にグリーンフラッグ
気温、路面温度ともに大きく下がったコンディションに
パフォーマンスは上がらず今季ベストながら悔しさの残る5位に
214周目に雨による赤旗が出された。雨雲の滞在が短時間と見たインディーカーはグリーンでのゴールを目指し、2時間10分の中断の後、夜の9時過ぎにグリーン・フラッグが振られた。ゴールまで36周のバトルが始まった。雨が降った上に、もう完全に暗くなった夜9時過ぎとあって、路面の温度は大きく下がっていた。このコンディションを味方につけることができるのは誰なのか?
琢磨は230周目にパワーをパスしたが、その後には周回遅れのシモン・パジェノー(メイヤー・シャンク・レーシング)に行手を阻まれ、オーワードの後ろの5位でのゴールした。チームメイトのルーキー、マルーカスが最終ラップにマクロクリンをパスしての2位フィニッシュと大健闘。最後のピット・ストップを同じタイミングで行なったマルーカスとの間に3つのポジション差がついてしまった点からも、今シーズン自己ベストの5位という結果も琢磨にとってはただただ悔しいものとなった。ポイントとなったスティントでのタイヤ・パフォーマンスがとても悔やまれる。ペンスキー勢2人と優勝争いを繰り広げ、表彰台に立つことが十分に可能と見られたレースだっただけに……。
ホンダ勢トップとなったデイル・コインのパフォーマンス
明るい面を探すなら、デイル・コイン・レーシングのマシンがゲイトウェイでのレースでチップ・ガナッシ・レーシングやアロウ・マクラーレンSPより速かったという点。ヴェテランとルーキーの新コンビは初めて2台揃ってのトップ5フィニッシュを記録した。
最初のイエローが出て、ピットに入り損ねた時、琢磨陣営には開き直ってトップを走り続けるという選択肢もあった。しかし、次の周に琢磨はパワーにトップを明け渡してピットに向かった。これは結果的に好判断だった。ステイ・アウトしたライヴァル勢はディクソン=189周、エリクソン=193周、パワー=194周、最もストレッチしたオーワードでも198周でピット・イン。あの後にコーションが一度も出されなかったために、彼らのゴールまでのスティントは非常に長くなり、タイヤの持ちや燃費が厳しい状況となった。エリクソンとディクソンは雨による赤旗中断後、再スタートまでのイエロー中に燃料を継ぎ足すストップを行なったほどだった。もちろん、そこでタイヤも新しくして追い上げを……という思惑もあってのピットではあったが、彼らの最終順位はエリクソンが8位、ディクソンが9位だった。6位フィニッシュに終わったパワーも含め、チャンピオン争いをしている彼らとしては、“148周目のステイ・アウト”という決断はおおいに悔やまれるものとなった。
以上
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