シーズン後半戦に差し掛かった現在のポイントリーダーはインディー500を制したエリクソン。インディー以後も安定した結果を残している Photo:Penske Entertainment
2022年のチャンピオンになるのは?
現在のポイント・リーダーはエリクソンだが
2022年のNTTインディーカー・シリーズは全17戦。ミッド・オハイオでの第9戦を終えたところでポイント・リーダーの座にあるのはマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)だ。2009年の全日本F3チャンピオンは、F1グランプリを5シーズン戦った後にインディーカーへとやってきた。渡米4シーズン目の今年はインディー500で優勝しただけでなく、表彰台に3回上る安定感も見せて321点を稼いできている。
しかし、エリクソンがこのままポイント・トップの座を保ち続けて初タイトルへと逃げ切るだろう……と予測する人は少ないはずだ。昨年挙げた2勝はいずれも“転がり込んできた感”が強いものだし、3シーズン戦ってきているのにPPが“ゼロ”。今年のインディー500での最後の走りこそ力強かったが、エリクソンはまだインディカー王者となるに相応しい決定的スピードというものを見せていない。今より走りを1レヴェル高める必要がある。
第7戦デトロイトで予選16番手から会心の勝利を挙げ、噴水にダイブするパワー。速さとレース運びの巧みさを見る者に再認識させる勝利だった Photo:Penske Entertainment (Matt Fravor) |
ランキング2位は“モデルチェンジ”を果たしたパワー
ポイント・ランキング2番手につけているのはウィル・パワー(チーム・ペンスキー)だ。彼の今年の成績は以下の通り。
開幕戦セイント・ピーターズバーグ:予選2位/決勝3位
第2戦テキサス:予選4位/決勝4位
第3戦ロング・ビーチ:予選7位/決勝4位
第4戦バーバー:予選19位/決勝4位
第5戦インディアナポリス/ロード・コース:予選PP/決勝3位
第6戦インディアナポリス/オーヴァル:予選11位/決勝15位
第7戦デトロイト:予選16位/決勝1位
第8戦ロード・アメリカ 予選15位/決勝19位
第9戦ミッド・オハイオ 予選21位/決勝3位
パワーはかなり高い安定感を保ってきている。チームメイト二人はすでに複数回優勝をしているが、1勝の彼がポイントでは上。以前は、現在のポイント・リーダーはエリクソン現在のポイント・リーダーはエリクソン“勝ち星は多いのにポイントが……”というパターンだった。今年はまったく逆の様相になっている。
振り返ると、開幕戦からパワーはちょっと違っていた。予選で若いチームメイトのスコット・マクロクリンに0.1秒強の差で敗れる2位となってもサバサバしていて、レースでチームメイトが逃げ続け、自分の方は予選順位からひとつポジションを下げた3位でのゴールとなっても笑顔を浮かべていた。「最高のシーズン・スタートが切れた。好レースを戦ったのに謎のトラブルでポイント獲得のチャンスが霧消……とかなかったので」と心から喜んでいたのだ。
競争の激しい今日のインディーカーの戦いで
ベストを尽くすことのみにフォーカス
Photo:Penske Entertainment (Chris Jones) |
GMR GPで昨年のゲイトウェイ以来となるPP獲得。これはロード&ストリート・コースだと2020年最終戦のセイント・ピーターズーバーグ以来で、パワーはまたひとつPP回数を増やせたことに大きな満足感を得ていた。「プラクティスでは23人がコンマ6秒の差の中に入っていた。予選ではほんの小さなミスも許されなかった。いまのインディーカー・シリーズでPPを獲得できたら、それは非常に素晴らしい仕事をしたということなんだ。予選での最終ラップがPP獲得に十分なものになっているかどうか、走っている間はまったくわからなかった。ただ、自分の本当のベストを出し切り、1ラップをまとめ上げた。新品タイヤとほとんど変わらないラップタイムを出せていたことは予選が終わてっから知ったよ。ユーズド・タイヤでのタイムとしては非常に好いものだった。いまのインディーカーでPPを獲るのは信じられないほどに難しい。毎週違う人が素晴らしい1ラップをまとめ上げてPPを手に入れている。1年に2回PPを獲るのは難しい。2個、3個とPPを記録できたら、それは非常に好い仕事をしているということだ」。
このPPはマリオ・アンドレッティのレコード67回に迫る通算64回目だったが、パワーは記録に対する執着はないという。「本当に、それを考えることはほとんどない。自分のベストを尽くそうという姿勢でいる。そうすればPP獲得、そして記録更新はなるとわかっている。記録まであと少しであることは十分に理解している。しかし正直な話、ここまで記録に近づけた自分は恵まれていると思う。ここまで近づけるなんて思いもよらなかった。自分がマリオ・アンドレッティとAJ・フォイトのPP獲得回数に並んでいけるなんて想像していなかった。近頃はPP獲得が至難になっているので、ひとつ獲れたら、その味わいはこれまで以上のものと感ずる。自ら獲得を喜ぶことにしている。もう1回獲得できるかどうかはわからないから。優勝でもPPでも、いまの本当に競争がタフなインディーカーで手にできたら、それは自分が本当に恵まれた環境にあることだと感謝し、幸せと感ずる」と、彼のパフォーマンスを祝福するメディアを前に話せば話すほど彼のコメントはどんどん謙虚なものになっていった。
デトロイトでの快勝、ミッド・オハイオでの粘り
成熟したレース運びを身に着けたパワーの後半戦に注目
ヴェテランになると先を読むのがうまくなる。豊富な経験から答えを出す彼らは往々にして諦めが早くなる。パワーもそうした戦いぶりをインディー500などで見せてきていた。しかし、今年の彼は自らに備わっているスピードをもう一度フルに発揮して戦ってみようと考えている。
「自分の体の中には何か燃えるものがある。それを持っていないと常に速さを求める戦いを長年続けることなどできない。いまのインディーカー・シリーズにはそれを持ったドライヴァーが多くいるということだと思う。17歳だった時の自分と比べ、いまの自分が速くなってはいない。速さは同じだろう。ただ、いまの自分はアタックラップのまとめ方、週末を通しての戦い方、マシンに対する知識とそれをセッティングする力に必要なものを当時よりたくさん道具箱に揃えている。そして、今年の自分はとても好いドライヴィングができてもいる。自分のベストに近いものを、これまでの経験を活かして実現し続けてこれていると思う」。
インディーのロードコースでは勝てなかったが、デトロイトのストリートでパワーは今シーズン初勝利を挙げた。このときの勝ちっぷりが素晴らしかった。作戦を味方につけたのも事実だったが、パワーならではの他を寄せ付けない“破壊的な速さ”で前を走るライヴァルたちを次々パスし、同時にタイヤを労わる走りや前車とのギャップのコントロールするなどの非常にクレヴァーなヴェテランらしい走りも披露した。
ミッド・オハイオではリスタート後にヴィーケイと激しいポジション争いを演じた。パワーの熱さもまだまだ健在だ Photo:Penske Entertainment (Matt Fravor) |
続くロードアメリカではルーキーにブツケられて上位フィニッシュの可能性を潰され、不運な面がまたも顔を出したかに見えた。ミッド・オハイオの予選ではライヴァルをブロックするミスで、PPを狙えるマシンを持っていながら21番グリッドしか手に入れられなかった。背後から接近するマシンがあることをピットが無線で知らせるだけで防げたミスだった。パワーは勢いを失ったかに見えた。「チャンピオンシップを投げ出すようなミスだった」と彼自身がコメントしたほどだった。
翌日のレースでも、パワーはスタート直後にポジション・アップを欲張り過ぎてスピンし、最後尾に転落した。またもや”元のパワー”に逆戻りかと思われた。しかし、そこからデトロイトと同等かそれ以上の猛チャージを見せた。
「自分は成熟したドライヴァーになっている。それは間違いない。インディーカーで17年戦ってきた中で、少しずつそうなってきた。ミスは少なくなったし、攻めるべきとき、守るべきタイミングが以前よりわかっている」。まさにこのコトバ通りのレースを彼はミッド・オハイオで戦っていた。
「今年の自分は以前よりレースに対してよりフォーカスしている。最近の2シーズンほどをかけて、レースにどのようにアプローチすべきか、タイヤの使い方やそのほかの細かなものごとについても研ぎ澄ますことができてきたように感じている」と、とても穏やかな表情で話していたパワーは、さらに続けた。「シーズンを上手にまとめ上げることができら、シリーズのベストでなかったとしても、単にミスなく戦うことができればチャンピオンシップを手にすることは可能だと考えている」。
いま、パワーは自身二度目となるインディーカー・タイトル獲得にかなり接近している。ロード・アメリカでのような不運や、メカニカル・トラブルなどに見舞われなければ、それを実現する可能性は十分にある。
以上
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