まだ今シーズン勝利こそないものの、4戦を終えてポイントランキングトップに立っているパロウ。ホンダ陣営が劣勢となっている状況だけに、その実力と安定度は際立っている Photo:Penske Entertainment
開幕4戦、全コースヴァラエティをひと回りして
現在トップに立っていたのはパロウ!
2022年NTTインディーカー・シリーズの開幕からの4戦はストリート×2レース、ハイ・バンクの1.5マイル・オーヴァルで1レース、常設ロードコース1戦だった。これで一応すべてのコース・ヴァラエティが1戦以上消化され、チャンピオンシップ・ポイント・リーダーは誰か……と見るとアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)がその座に就いていた。昨年、インディーカー・デビュー2年目、24歳にしてチャンピオンとなった彼は1勝も挙げていないというのにしっかりとポイント・トップに立っているのだ。
Photo:Penske Entertainment |
そして3回の表彰台を獲得!
6度のタイトル獲得歴を誇るスコット・ディクソンが自身初のタイトルを手にしたのは2003年、彼が23歳の時だった。パロウの戴冠はそれより1年遅れだったわけだが、スペイン出身ドライヴァーは当時のディクソンよりも成熟度が高い。近年のインディーカー・シリーズの競争は毎年激しさを増し続けており、コンスタントに上位フィニッシュすることはディクソンが初タイトルを手にした時代よりも格段に難しくなっている。今年のパロウにはディフェンディング・チャンピオンとして戦うプレッシャーものしかかっているはずだが、開幕戦セイント・ピーターズバーグでは予選10位から大きく順位を上げた2位でのフィニッシュを達成し、第3戦ロング・ビーチでは予選・決勝ともに3位。そして今回、第4戦バーバーでも予選3位から2位でゴールと4レースで3回表彰台に上ってみせた。第2戦テキサスでも11位スタートから7位フィニッシュと決して悪くはないパフォーマンスだった。スピード、クレヴァーさ、しぶとさ、秘めた自信……彼はこれから何度も王座を手に入れることとなりそうな雰囲気をさらに強く漂わせている。
3ポイント差でパロウを追うマクロクリン
開幕戦で衝撃的な勝利を収めたマクロクリンは、その後も粘り強い走りでペンスキーのベテラン二人にポイントランキングで先行する活躍を見せている Photo:Penske Entertainment |
その一方、セイント・ピーターズバーグでキャリア初優勝を飾り、第2戦テキサスであわや2連勝=オーヴァル初勝利も……という走りを見せたスコット・マクロクリン(チーム・ペンスキー)は、自ら期待を高め過ぎてしまって、それに応えられずにいる印象で、ロング・ビーチは予選9位・決勝14位と不発に終わった。それでも、バーバーでは予選4位・決勝6位と苦しい状況下でも粘り強く戦って好リザルトを残し、ポイント・スタンディングではタイトル獲得経験を持つ先輩チームメイト二人より上の2番手につけている。トップのパロウとの差は3点と小さい。
今季安定感を見せるペンスキー勢
2勝のニューガーデンが3位、パワーが4位にニューガーデンはテキサスの初優勝し、続くロングビーチも制す Photo:Penske Entertainment
ランク3番手につけるのはテキサス、ロング・ビーチと2連勝(=これまでのところシーズン最多)したジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)だ。同4番手は開幕からの4戦で“らしくない”安定感を見せて来ているウィル・パワー(チーム・ペンスキー)。トップ4にペンスキー勢が3人。彼らのチームとしての戦闘力は昨年より嵩上げがされているようだ。それが4カーから1台減らした3カー体制としたからかどうかは明らかではないが……。
バーバーで今季初優勝のオーワードが5位に浮上シーズン序盤はもたついたが、バーバーで鮮やかに勝利したオーワード。今シーズンもタイトルを争う存在になるはずだ Photo:Penske Entertainment (Chris Jones)
パト・オーワード(アロウ・マクラーレンSP)はバーバーで今シーズン初勝利。第4戦ロング・ビーチ終了時点で9番手だったランキングを一挙に5番手まで上げた。一昨年がランキング4位、昨年もランキング3位と2年連続でチャンピオン争いに加わっているメキシコ出身ドライヴァーは2022年の開幕ダッシュに失敗した。セイント・ピーターズバーグの予選ではQ2にも進めずの16位に沈み、決勝も12位という結果を得るにとどまった。テキサスは去年優勝しているレースだというのに予選10位、決勝は1ラップ・ダウンの15位と”低迷”(チームメイトはPPだった)。ロング・ビーチでも予選は11位と振るわなかった。しかし、そのレースで5位までポジションを上げてゴール。勢を掴み、今回のバーバーでは予選2位から”トップを奪うタイミングを待ち、それが来たと思ったところで猛然とアタックして前に出る”成長ぶりを見せてシーズン初勝利=キャリア4勝目を掴んだ。パロウよりさらに若い22歳のオーワードもインディーカー・チャンピオンの素材。そして、彼はF1参戦への意欲も隠していない。
ヴィーケイとECRの躍進
新体制で久々に実力発揮のレイホールにも注目シヴォレーのパフォーマンス向上を受けて、持ち前の速さに安定感が加わってきたヴィーケイ Photo:Penske Entertainment (Joe Skibinski)
ランキング6〜10番手はスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)、リナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター・レーシング)、ロマイン・グロジャン(アンドレッティ・オートスポート)、マーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)、グレアム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)。ヴィーケイとECRは昨年より確実にレヴェル・アップしており、エリクソンは昨シーズンの後半から見せている安定感を保っている。そして、ふたりの若いチームメイトを迎えた新体制を引っ張るレイホールはその責任感がモーティヴェイションとなっているのか、久しぶりに持ち前のレーサビリティの高さをシーズン序盤に発揮して来ている。
AA移籍後、傲慢な走りが目につくグロジャン
次戦インディー・ロードコースでの走りに注目
接触もいとわない強引なドライビングが目につく今年のグロジャン。何が彼の走りを変えてしまったのだろうか Photo:Penske Entertainment |
グロジャンは少々停滞気味だ。昨シーズン、デビューからいきなりスピードを見せた彼はヨーロピアン・フレイヴァーを漂わせたナイス・ガイとして多くのアメリカ人ファンを瞬く間に獲得した。しかし、強豪チームに移籍しての2シーズン目、彼からクラッシーな雰囲気は消えてしまっている。ファンとインディーカーの歓迎ムードを利用したかのような傲慢な走りっぷりで評判は急降下。不必要に敵を増やしてしまっている感が否めない。チームと自らのパフォーマンスが自ら思い描いていた通りになっていないことで苛立っているのかもしれない。ロング・ビーチではレース巧者ぶりを見せて2位フィニッシュ(今季のチーム内最上位)したものの、予選ではまだ一度もチーム内トップになれておらず、バーバーまでで挙げておきたかった初勝利を達成できていない。次のインディー・ロードコースは昨年初挑戦だった5月のレースでポール・ポジションを獲得してレースも2位フィニッシュ、8月に同コースで行われたレースでも予選3位、決勝2位と速さを見せたコース。念願の初勝利がなれば落ち着きが取り戻されるかもしれないが、チームが上向かない場合には負のスパイラルに陥る可能性もある。
予測できなかったシヴォレー開幕4連勝
躍進をもたらしたイルモアとシヴォレー陣営の努力
2022年シーズンはシヴォレー勢が開幕4連勝を飾っている。これは正直言って驚きだ。彼らのライヴァルであるホンダは昨年3連勝、一昨年には4連勝を記録するなど、2018年から2021年まで4年連続でマニュファクチャラーズ・タイトルを獲り続けている。今年も彼らの優位が保たれると考えられていたからだ。新デザイン・エンジンへの移行はパンデミックによるサプライ・チェーンの混乱によって2023年か2024年へと先送りされている。それまでの間、現行エンジンは大きなデザイン変更はできないルールなので実力差をひっくり返すのは至難の業。しかし、イルモア・シヴォレー・エンジンは例年とはまるで異なる大きな進歩を2022年に向けて実現して来た。最大パワーが押し上げられ、それに付随してドライヴァビリティも燃費性能も向上し、全面的な戦闘力アップがなされたのだ。イルモアとシヴォレー陣営はユーザー・ドライヴァーやチームからの意見、リクエストに真摯に耳を傾け、彼らが望む改善を積極的に追求する方針を採用してマッピングに大きな見直しを施した結果、エンジンが本来持っていた潜在性能がより一層引き出されることとなり、2012年以来となる開幕4連勝に繋がった。
アロウ・マクラーレンの登場で
ペンスキー頼みだったシヴォレー陣営の構図にも変化が
シヴォレーの躍進はユーザー・チームの実力が底上げされたことで実現されている。一昨年までの彼らは完全にチーム・ペンスキー頼みだったが、マクラーレンの本格参入でアロウ・マクラーレンSPが実力を急伸させ、エド・カーペンター・レーシングもヴィーケイを獲得してからオーヴァル以外でも上位での戦いを行えるようになった。2022年の開幕3レースでアロウ・マクラーレンSPは思うようにパフォームできていなかったが、バーバー・モータースポーツ・パークでは今シーズン初勝利。シヴォレー・ユーザー2番目のウィニング・チームとなり、今年のエド・カーペンター・レーシングは開幕戦から上位での戦いに食い込んでおり、バーバーでは今シーズンのシヴォレー軍団3番目のポール・ポジション獲得チームとなり、同じく今シーズンの表彰台に上るシヴォレー勢3番目のチームとなった。
次戦GMRグランプリは過去2年間シヴォレー優勢
ホンダ陣営の巻き返しに注目
インディアナポリス・モーター・スピーウェイのフラットかつ高速なロードコースで行われる第5戦GMRグランプリでの勝者となるのは誰か?
2012年から続いて来ているホンダとシヴォレーの一騎打ちで開幕からの連勝は「4」が最多だが、その記録を破る5連が達成される可能性は十分にある。昨年行われたインディーのロードコースでの2レースを振り返ると、予選ではグロジャンとオーワードがPP獲得。レースではヴィーケイとパワー、2レースともシヴォレー・ユーザーがウィナーとなったのだ。予選を振り返っても、通常の3段階で争われた5月のGMRグラン・プリでこそグロジャンがPPを獲得したが、彼とファイナルを戦ったのはニューガーデン、ジャック・ハーヴィー、パロウ、マクロクリン、コナー・デイリーという面々(3名がシヴォレー)で、2グループから12名を選抜してPP争いを行うファスト12方式を採用したハーヴェストGPの予選でオーワードに続いたのはパワーと、シヴォレーが1ー2だった。3位以下はグロジャン、クリスチャン・ルンドガールド、ハータ、パロウ、ハーヴィー、デイリー、ヴィーケイ、アレクサンダー・ロッシ、エリクソン、シモン・パジェノー。トップ12はホンダ7人vs.シヴォレー5人とホンダ優勢だったが、真夏のレースでも勝利をものにしたのはシヴォレー・ユーザーだった。
ホンダ陣営としては、メイヤー・シャンク・レーシングとも協力するレギュラー6台体制を敷くアンドレッティ・オートスポート、王者チップ・ガナッシ・レーシング、そして、グロジャンのマシンを受け継ぐ形となっている佐藤琢磨(デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR=4レースでトップ10フィニッシュx1回、ランキング14位)に好走の期待を抱いている。
以上
0 件のコメント:
コメントを投稿