2022年3月21日月曜日

2022 INDYCARレポート R2 XPEL375 Race Day 決勝:テキサスで佐藤琢磨、無念のリタイア

十分に優勝を狙えるパフォーマンスを発揮した佐藤琢磨だったが、トップ走行後62周目のピットイン時にマルーカスに進路をふさがれるトラブルで23位に後退。このチームのミスからレースの巡り合わせが一気に悪化してしまった Photo:Penske entertainment クリックして拡大

 デフランチェスコの未熟な走行が招いたアクシデント

 サイド・ポッド下にターニング・ヴェインを装着してダウンフォースを増やすインディーカーによるレギュレーション変更は正解だった。しかし、インディーカー・デビューを急ぎ過ぎた1人のルーキー、デヴリン・デフランチェスコ(アンドレッティ・スタインブレナー・オートスポート)にはダウンフォースがまだまだ不足していたようだ。

98周目に佐藤琢磨を弾き飛ばした後、このレース3回目のリスタートが切られた128周目に、ツーワイドとなっていたカストロネヴェスとレイホールに、デフランチェスコはインからホワイトラインカットしつつ押し上げるように割り込んでクラッシュ Photo:Penske entertainment クリックして拡大

 彼が初めての高速オーヴァル・レースでマシンを制御下に保てなかったために、強力なコンペティターが3人も犠牲になった。その最初が佐藤琢磨(デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR)。イン側低くにマシンを止め続けることができなかったデフランチェスコはパスを仕掛けて来た琢磨の方へ滑り上がって接触。その後にはリスタートで無理な3ワイドを作り出し、グレアム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)にヒット。スピンしたレイホールはエリオ・カストロネヴェス(メイヤー・シャンク・レーシング)を道連れにハード・クラッシュを演じた。この時にデフランチェスコもクラッシュし、リタイアとなった。



開幕戦に引き続き、自己中な走行を繰り返すデフランチェスコ

 2020年のインディー・プロ2000では2勝してルーキー・オヴ・ザ・イヤーとなったデフランチェスコだが、2021年には早くもインディー・ライツへステップ・アップ。ダントツのトップ・チームであるアンドレッティ・オートスポートからの出場で勝利ゼロ、表彰台も3位での2回だけ。目立った走りはできておらず、レギュラー12台のシリーズでランキング6位になっただけなのにインディーカーに上がることを希望し、それが受け入れられた。「彼のドライヴィング・スタイルにはライツよりインディーカーの方が合っている」とマイケル・アンドレッティは話していた。バリー・グリーンがジャック・ヴィルヌーヴをフォーミュラ・アトランティックからインディーカーへ引き上げた時に言っていたのと同じセリフだ。奇しくもこの二人は同じカナダ出身ドライヴァーだが、デフランチェスコがヴィルヌーヴほどの才能に恵まれているようには、少なくとも今までのところは見えていない。
 今年の開幕戦セイント・ピーターズバーグの終盤土壇場、トップを快走していたスコット・マクロクリン(チーム・ペンスキー)の前に立ちはだかったバック・マーカーがいたのを覚えているだろうか。1周で2秒はペースが遅いのにリード・ラップでのゴールにでも拘りたかったのかレース・リーダーに一切道を譲らなかったルーキー……あれもデフランチェスコだった。デビューから2戦連続でやらかした彼は、トップ・カテゴリーで走るだけの経験を積み重ねてきていない。そう言われても仕方がないだろう。


最終ラップの最終ターン立ち上がりで
ニューガーデンがマクロクリンをオーバーテイク!


最終ラップの4ターン立ち上がりでバックマーカーに接近し、スピードが緩んだマクロクリンをニューガーデンがオーバーテイク! 186周のリードラップを課されたマクロクリンはわずかリードラップ3周のニューガーデンに敗れた! Photo:Penske entertainment クリックして拡大

 
 琢磨はダメージを受けたサスペンションを修理してもらってコースに戻ったが、ポジションを20位まで上げたところでマシンを降りた。その後、彼はピットでレースを最後まで見ていた。最終ラップの最終ターンでニューガーデンはマクロクリンをパス!
ターン4寄りの琢磨のピットはその劇的な大逆転を見届けるのに絶好の場所だった。興奮冷めやらぬファンの歓声がまだ残っているピットロードで、「今日はペンスキー勢と最後までやり合いたかった」ということばが琢磨の口をついて出た。インディーカー・レースならではのスリリングなトップ争いを目の当たりにしたことで”自分もあそこにいることができたはずだ”という思いが琢磨の体の中でさらに強く渦巻くこととなったようだった。実力あるライヴァルたちと全力を尽くしてのバトルを戦い、彼らを倒して目指す栄光を手に入れる。それができなかった無念さがこちらにひしひしと伝わってきた。


「最初のスティントを耐えられれば戦えると考えていました」

 「自分のクルマが出場27台の中で一番空力をトリムしていたんです。それはグリッドで確認してました。昨日のプラクティス2で50周走ったらタイヤは前後ともコードが出ていましたから、トリムすることでタイヤは持つのか? という不安はありました。でも、なんとか大事に走るようにして最初のスティントを終わることができれば、ラバーが路面に乗ったその後のスティントではタイヤの負担は少なくなりますから、戦えると考えていました」と琢磨は自らの書いたシナリオを話した。1回目のピットストップ前にトップに立つまでの走りを見せていながら、あの時点での彼はまだタイヤを労わっての、かなりの余力を残した走りを行っていたのだ。「ダウンフォースをどれぐらいに設定するかが難しいレースになる」とプラクティス2の後に琢磨は話していた。その設定で彼とエンジニアのドン・ブリッカーは正しい解答を導き出していたということだ。

悔やまれるピットイン時のチームの判断ミス

 1回目のピット作業を受けるべくピットロードに入った琢磨は、自らのピット・ボックス入り口がルーキー・チームメイトのマシンで塞がれているという信じられない光景に出くわした。チームメイトとピットを隣り同士にするという選択が今回は完全に裏目に出てしまった。琢磨より2周後にピット・インするはずだったデイヴィッド・マルーカスだったが、予定を変更して琢磨より前に緊急ピット・イン。そこまでは良かったのだが、琢磨がピットに入ってきたタイミングでピットからリリースしてしまったのが第一のミス。それに気づいて彼をストップさせる指示を出したのが第二のミスだった。止まらずに出て行ってくれていたら、琢磨がピットへ入るところで多少の邪魔になったとしても致命的な遅れを取るところまでは行かなかったはずだ。

初のオーバルレースでインディーカー自己最高位の6位に入ったジミー・ジョンソンを記者が取り囲む Photo:Penske entertainment クリックして拡大

  トップでピットに向かった琢磨だったが、コースに戻ると1周遅れの23番手まで順位は落ちていた。そこからリード・ラップの17番手まで琢磨が順位を上げた時、最終的に6位フィニッシュをしたジミー・ジョンソン(チップ・ガナッシ・レーシング)は彼の後ろを走っていた。まだ上位フィニッシュの可能性は十分にあったということだ。しかし、クリスチャン・ルンドガールド(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)にパスされてスピード・ダウンを余儀なくされたデフランチェスコは順位をさらに下げることを嫌ったのかコースのボトム側で踏ん張り続けた。その結果、自分のマシンが自分の手に負えなくなり、運悪くそのタイミングでアウト側に並びかけてきた琢磨にヒットした。開幕戦のゴール前と状況が似てはいないか。レーサーが負けず嫌いなのは悪いことではないが、それが強過ぎて的確な判断が下せなくなっていたように見える。


ニューガーデンの最終ラップのマニューバーこそ
このレースで佐藤琢磨が思い描いていたオーバーテイク

レースを支配していたチームメイトのマクロクリンを0.0669秒差で逆転したニューガーデンは興奮冷めやらず Photo:Penske entertainment クリックして拡大

  「マシンのバランスはかなり良かったですね。コースの片側でアンダー、反対側でオーヴァーということはありましたが十分にマネージできるレヴェルでした。トリムしていた僕らはターン4からのスピードがみんなよりずっと速く、ターン1に入るまでにパスできていました。ラスト・ラップの最終コーナーでのニューガーデンの大逆転はまさにオーヴァル・レースの醍醐味。トリムしたマシンでできるのが、あぁいうパスだから」と琢磨。今回は結果に繋げることができなかったが、マシンの良さは確認された。「デイル・コイン・レーシングのクルマがオーヴァル、特にスーパースピードウェイで速いというのはわかっていました。でも、レースでのペースに関しては改善の余地があったと思います。それが今日、自分たちはトップ・グループで走れることを証明できたんです。そこは非常に勇気づけられることでした」とも彼は語った。


デイル・コインのマシンのパフォーマンスに手応え
次戦以降のストリート、ロードの戦いに期待


 デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRで走る琢磨は、今年もインディー500でかなり高い戦闘力を発揮するであろう。それが確認できたテキサスでの週末だった。
 次は今シーズンのストリート2戦目となるロング・ビーチ。琢磨が2013年にインディーカー初優勝を記録したコースなだけにセイント・ピーターズバーグ以上の戦いぶりを期待したい。その次に来る常設ロードコースでの2戦、バーバー・モータースポーツ・パークとインディアナポリス・モーター・スピードウェイのロードコースは、昨年ロマイン・グロジャンが大活躍したコースなので、これらもおおいに楽しみだ。ロードコースで本当に戦闘力の高いマシンを手にした琢磨はどれだけのパフォーマンスを見せてくれるだろうか。
以上


0 件のコメント:

コメントを投稿