2022年2月6日日曜日

2022 INDYCARニュース 2月7日:2月のニュース VOL. 1

ビンス・グラナテッリ 1943-2022 写真は2014年にタービンカーをドライブしたときのカット Photo:Penske entertainment クリックして拡大
ヴィンス・グラナテッリ死去

 80~90年代にかけてインディーカーのチーム・オーナーとして活動していたヴィンス・グラナテッリが1月下旬に亡くなった。呼吸器系を患っていた彼はCOVID-19に感染、78歳で息を引き取った。

1968年のインディー500。STP グラナテッリ・タービンマシンの2年目、ジョー・レナードがポール・ポジションを獲得。左から3人目、スーツ姿がアンディ・グラナテッリ。その右はコーリン・チャップマン Photo:Penske entertainment クリックして拡大 

インディーを席捲したSTP

 ヴィンスの父は”ミスター・インディー”と呼ばれたアンディ・グラナテッリだ。STPという潤滑剤のメーカーを経営していた彼は、50~60年代にインディーカーのチームで陣頭指揮を執り、大々的に展開したSTPのプロモーションでも目覚ましい成果を挙げた。彼はユニークな先端技術を注ぎ込んだマシンをレースに登場させ、そのマシンを目にも鮮やかな蛍光オレンジでペイントした。クルーたちはSTPのロゴを散りばめたオーヴァーオールを着用し、オーナーもその巨体をSTPロゴ満載のスーツで包んでインディーのピットに立ち、アメリカ中で話題となった。グラナテッリはテレビやラジオのコマーシャルに自ら出演し、膨大な数のSTPのステッカーをばら撒く戦略も採用してブランド名を世間に完全に浸透させた。

1967年、衝撃のガスタービンカー登場

 1967年、アンディのチームはインディー500の歴史に残るマシンを登場させた。ヘリコプター用タービン・エンジンをマシン中心部より左側に搭載し、コクピットをその右側にレイアウトしたものだ。STP・パクストン・ターボ・カーと名付けられた左右非対称マシンは四輪駆動でもあった。ガスタービン・カーの登場はこれがインディー500史上で初めてではなかったが、予選通過を果たしたのは彼らが最初だった。
 ピストン・エンジンを搭載するマシンが轟音を発して周回する中、タービン・カーは”シューン!”という静かな排気音とともに驚くべきスピードで疾走。“サイレント・スクリーマー”、”ウッシュモービル”などなどのニックネームとともに人気を博した。
 予選を6位で通過したパーネリ・ジョーンズは、レースがスタートするや半周でトップに躍り出て、196周目までの171周をリード。大勝利は目前だった。しかし、197周目にトランスミッションにトラブル発生。優勝は彼らの手をすり抜け、AJ・フォイトのものとなった。勝利を阻んだのは、わずか6ドルのベアリングだった。


マリオ・アンドレッティ、STPにインディー500初優勝をもたらす

 アンディのSTPチームはその2年後の1969年、マリオ・アンドレッティとともにインディー500での勝利を記録した。マシンはフォード製V8ターボ・エンジンを搭載したコンヴェンショナルなミッドシップ&後輪駆動のブロウナー・ホウクだった。タービン・エンジンはルール変更によって戦闘力を奪われたため、グラナテッリはF1に出場するチーム・ロータスが作り上げた前後にウィングを装備した先鋭的四輪駆動マシンを投入したのだが、予選直前にそのマシンが大破してしまったのだ。ウィング装着などの効果でコーナリング・スピードが向上していたマシンは、増大したストレスをハブが受け止め切れなかった。マリオはターン1で大クラッシュ。グレアム・ヒルとヨッヘン・リントをエントリーしていたロータス本家のチームも、彼らのマシンに同じトラブルの症状が見られたために予選出場を諦め、この年のレースから撤退した。そして、コリン・チャップマンと彼のチームによる”500”へのチャレンジは、これが最後となった。

1969年のインディー500を制したブロウナー・ホウク。現在IMSのミュージアムに展示されている Photo:Masahiko Amano クリックして拡大

 バックアップ・カーでの1969年の優勝は、グラナテッリにとっても、アンドレッティにとっても初めての、そして唯一の”500”での勝利となった。STPカラーのマシンは1973年にも勝っているが、それはパトリック・レーシングが走らせたものだった(ドライヴァーはゴードン・ジョンコック)。

父の後を追ってチームを立ち上げたヴィンス
小規模チームながら輝きを放った4年間

1989年のインディー500。ドライバーはトム・スニーヴァ。右フロントタイヤのすぐ前に立っているのがヴィンス・グラナテッリ Photo:Penske entertainment クリックして拡大

 父のチームでメカニックとして働いていたヴィンスは、一度はレースの世界を離れたが、ビジネスで成功すると、父と後を追ってチームを立ち上げ、センセーションを巻き起こした。創立初年度の1987年、ロベルト・ゲレロは開幕戦ロング・ビーチで予選2位となり、チームの地元であるフェニックスの1マイル・オーヴァルでのシーズン第2戦目で早くも優勝した。8月のポコノ500で3位フィニッシュし、9月にはミッド・オハイオ・スポーツ・カー・コースで2勝目を挙げたのだ。1991年はヴィンスのチームが活動する最後のシーズンとなったが、アリー・ルイエンダイクがフェニックスとペンシルヴェニア州ナザレス(こちらも1マイル・オーヴァル)で優勝した。グラナテッリ二世のチームは小規模だったが、強豪たちを相手にトータル4勝を記録して見せた。インディー500でも87年にゲレロが2位、91年にルイエンダイクが3位と、優勝はならなかったものの称賛されるべき健闘ぶりを見せた。

 69年、インディーを制したマリオ・アンドレッティとアンディ・グラナテッリのチームはシリーズ・チャンピオンの座も射止めた。87年のゲレロはポール・ポジションを4回獲得し、ミッド・オハイオでのシーズン2勝目によってチャンピオン争いに踏みとどまっていた。しかし、ミッド・オハイオの翌週に行ったインディアナポリスでのタイヤ・テストでクラッシュ。外れたホイールが頭部をヒットし、ゲレロは意識を失った。病院で17日間にも渡って生死の境を彷徨った彼は、シーズン終盤の3戦に出場できなくなって初のタイトル獲得は果たせなかった。それでも、ゲレロはボビー・レイホール(トゥルースポーツ)、マイケル・アンドレッティ(クラコ・レーシング)、アル・アンサーJr.(ダグ・シアソン・レーシング)に次ぐシリーズ・ランキング4位となった。彼のすぐ後ろのランク5、6位は全レースに出場したリック・メアーズ(ペンスキー・レーシング)とマリオ・アンドレッティ(ニューマン・ハース・レーシング)だった。資金繰りに苦労してインディーカーへの参戦を91年で終えたヴィンスだったが、彼がリーダーシップを発揮したチームは強豪へと成長する可能性を感じさせる輝きを放っていたのだ。


2023年導入の新規定インディーカー・エンジンが近々コースでの実走テスト開始か

 2023年からのインディーカー・シリーズでは新しいエンジンが使われる。現行エンジンは2.2リッターV6ツイン・ターボだが、新エンジンは排気量が2.4リッターへと拡大され(ターボは二つ装着で変わらず)、最大出力は現行の750馬力から800馬力超へとアップする。

 現在シリーズに参戦している自動車マニュファクチャラーはシヴォレーとホンダの2社。シヴォレーのエンジンはミシガン州ポンティアックのイルモア・エンジニアリング、ホンダ・エンジンはカリフォルニア州ヴァレンシアのホンダ・パフォーマンス・デヴェロップメントが、もう1年以上をかけて開発を担当してきているが、彼らの新エンジンの実走テストは、来る3月に行われることとなりそうだ。

 2023年からのインディーカーは、およそ100馬力を発生させるワンメイクのエネルギー回収システム(ERS)をエンジンと組み合わせたハイブリッド仕様とされる。ERSから得られる100馬力は、ドライヴァーがコクピット内のプッシュ・トゥ・パス・ボタンを押すことでリリースされる。

 2022年のシーズン中に幾つものコースを使って行われるであろうテストは、シヴォレーがチーム・ペンスキーとアロウ・マクラーレンSP、ホンダがアンドレッティ・オートスポート、チップ・ガナッシ・レーシングに主に委ねることとなるようだ。

 2023年シーズン用のインディーカー・シャシーでは、ERS搭載でのウェイト増=パフォーマンス低下を抑えるためにベルハウジングとトランスミッションのケーシングが現行モデルよりも軽量化されることとなっている。インディーカー・シリーズは、安全性確保などの観点から両マニュファクチャラーの実走行テストにそれらの新パーツのプロトタイプを供給し、来たるシーズンに実際に走るマシンのスペックにできる限り近づけたい意向だ。もちろん、エンジン・マニュファクチャラーとしても、自らのエンジンとERSとのコンビネーションを最善のものに仕上げるためにも、それらのパーツ装着は望むところだ。
 ところが、初テストからERSなどなどをすべて装着して……ということにはならない可能性が出てきた。パンデミックで世界中の多くの産業が停滞を余儀なくされ、ERSも新しい軽量パーツも、さらには、排気量増大~パワー・アップで必要になる冷却システムのアップグレード用パーツ群も納入が予定より遅れており、3月のテストは新エンジンのみ搭載で行われる可能性が出てきているという。
以上


0 件のコメント:

コメントを投稿