「いよいよオープンテスト!
それもインディーというのが気持ちいい」
ジャック・アマノ(以下――)お久しぶりです。佐藤選手はいつからアメリカに来てるんでしょう?
佐藤琢磨:1月の中旬です。セブリングでのテストの1週間前に来ました。インディーカーの行うフィジカルのテストとかを受けるためにも、その頃に来なければならなかったんです。
――3月初旬だった開幕が1ヵ月以上遅れ、レースのない時間が長くなっていますが、いよいよ明日、合同テストが行われますね。
佐藤琢磨:そうですね。ここまでも何度かプライヴェイト・テストをやって来ましたけれども、いよいよオープン・テスト、しかもインディアナポリス・モーター・スピードウェイでっていうのが気持ちがいいですね。ちょっと天気が心配ですけど、木、金曜のスケジュールが金、土曜に変わっての2日間の走行になるかもしれません。来週のバーバー・モータースポーツ・パークでの開幕を控えて、ここインディーで一度走れるっていうのは、流れとしてはいいことです。
――4月初旬というタイミングでインディアナポリスのオーヴァルを2日も走れるのは大きいですよね?
佐藤琢磨:はい。春のうちにもう1回テストがあるのかな? ないのかな?
――これをやったら、もう本番までテストはないでしょう。
佐藤琢磨:ないのか。でも、去年はインディー500の週にいきなり走ったので、その前に今回のように一度走れるのはチームとしてはすごく大きいと思います。去年の僕らは、去年のマシン・パッケージで強かったし、本当はそのままで良かったんですけど、エアロのルールも去年から大分変わりましたから、走行時間が皆に与られれば与られるほど、みんなパフォーマンスは同じようなレヴェルになって来ると思います。僕らにとっては、ライヴァル勢に多くの走行時間が与られることで、正直、厳しいチャレンジになると考えられます。それでも、冬の間に自分たちのチームも色々とクルマを速くするためにやって来たアイディアがあるので、それを明日、明後日のテストで見極める、あるいはテスト・プログラムをスタートできるっていうのはいいですね。
「今年は例年よりもクルマには乗れていますが
まだ自分たちがどのポジションにいるのかはわからない」
――コロナ禍でこのオフ、逆にテスト日数が増えてたのでは?
佐藤琢磨:チームに許されるテストは基本的に3日間で変わらないんですが、それにプラスして、先週のテキサスでのテストのように、インディーカーが開催したものがありました。去年はそれらが全部キャンセルになっちゃってましたが、今年は通常のシーズンと同じようなカタチになっていて、クルマには乗れてます。
――例年と比べ、開幕前に得られている感触はどうでしょう?
佐藤琢磨:正直言うと、自分たちがどれぐらいのポジションにいるのかがわかっていないですね。セブリングでのテストはあまり良くなかったんですよ、タイム的にも。いや、良くないどころか、すごく悪くて、ラップタイムは下の方でした。チーム・ペンスキー、チップ・ガナッシ・レーシングは相変わらず良くて、アンドレッティ・オートスポートの速さが際立っていました。でも、セブリングってレースをしないサーキットなので、毎年あそこで良いからストリートすべてで良いってワケじゃないんですよ。ただ、僕らはこのオフにセブリングに2回行きましたが、2回ともまとめ切れなかった。それがなぜなのかっていうのは、チームとしてちゃんと理由を見つけなくちゃいけないですよね。セイント・ピーターズバーグでのストリート・レースが第2戦として開催されます。あのコースでは去年、コンヴェンショナルなセッティングにして割と良かったので、今年もその方向でやると思います。バーバー・モータースポーツ・パークでのテストもm、グレアム・レイホールのマシンが非常に調子が良く、僕らはタイム的には下位に沈んでいたんだけれども、幾つかポジティヴな要素が見つかりました。テストした日が凄く寒かったけれど、開幕で行く時はもう春で、大分暖かくなるだろうし、なんとかマシンをまとめ上げられるんじゃないかなって期待を持って行きます。
「新しいエンジニアとはシーズンを通じてうまくいくことを願っています」
――今年からコンビを組むレース・エンジニアとの仕事はどうですか?
佐藤琢磨:マット(・グリースリー)とのコンビネーションは良くなって来ています。でも、これってレースの週末を一緒に過ごさないとわからないところがあります。いま二人の仲は良いけれど、果たしてコンディションが変わって行った時とかに彼がどういう風にクルマを変えて行くのか、僕の言ったことに対してどのように反応して行くのか、というのはやってみないとわかりません。ずっと一緒にやって来ているドライヴァーとエンジニアという人たちに対して、僕らは人一倍エネルギーを割いて行かないとならないですよね。うまく行くことを願ってます。そのための準備は色々として来ています。
――セイント・ピーターズバーグが1ヶ月半ほど遅らされたことで、シーズン序盤はかなりタイトなスケジュールになりました。それが戦い方を難しくしてますか?
佐藤琢磨:明日のテストの後には、もう3週連続でレースです。それでも、開幕が遅れた分だけチームとしては用意をする時間があったとも思います。みんな条件は同じですから。僕らとしては、1回レースをやって2週間の間を置いて……みたいなスケジュールの方が体はラクですけれども、でも、ここまで準備できる時間があったので、そういう意味ではやれるだけのことはやって来たって感じています。
――アラバマ、フロリダ、テキサスの3連戦はインディアナポリスには戻らず……ですか?
佐藤琢磨:ずっと旅したままになります。モーターホームで2日かけてインディーからアラバマまで行って、アラバマのレースの後はまた2日かけてフロリダに移動する……って感じで。
「フェルッチがチームメイトになってよかった!
チームとしての戦闘力アップにもつながると思います」
――昨日か一昨日、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングはインディーに3台目を出場させ、それにはサンティーノ・フェルッチが乗るって発表されました。去年インディーで4位フィニッシュした若いアメリカ人ドライヴァーですが、佐藤選手の彼に対する評価、そして今年のインディーでの期待度はどんなものありますか?
佐藤琢磨:彼は速いけれど、危ないドライヴァーというところもあるので、チームメイトになって良かったですよね、逆に(笑)。インディーカーにデビューして以来オーヴァルでものすごい速さを見せて来ているし、去年のインディーでの活躍もあったので、僕らとしては戦闘力アップ、チームのレヴェル・アップに繋がるかなと思っています。
――レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングに戻って4シーズン目、今シーズンに向けてもチームが進歩していることを感じていますか?
佐藤琢磨:伸びていますよ。僕が来た2018年には、このチームのスーパースピードウェイでのパフォーマンスは低かったけれど、去年インディーで勝つところまで来ていたし、ショート・オーヴァルも調子がいい。あとはやっぱりロードコース。2017年まで、エアロ・パッケージがあった時代のレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは凄く速かった。2018年にユニヴァーサル・エアロ・キットになってダウンフォースが減らされた時に足元を掬われてしまった。いま、大分良くなってきているとはいえ、あの時の強さはまだ見つけることができていない。僕らとしては、そこまで前進したいところ。確実に毎年レヴェルを上げて来ることはできています。同時に、いつものことですけれど、ライヴァル・チームもこのクルマを長く使って来ているので、全体のレヴェルが底上げされています。エンジニアやメカニックのチーム間での移動もあるから、みんな情報共有をしちゃって、高いレヴェルで実力が拮抗し、差をつけるのは難しくなっています。
「正直僕らのチームはまだ選手権を
勝ち取れるレベルにはないと思っています」
――グレアム・レイホールがしばらく勝てていません。佐藤選手と両方が勝てるようになったら、より強いチームになりますよね?
佐藤琢磨:僕が来るまではグレアムは勝っていました。1台体制のチームとしては一番良かった。勝てないことでグレアムにもすごいフラストレーションは溜まっていると思います。チームとして、2人のドライヴァー両方が勝てる状態に持って行くことができれば、それこそ現実的にチャンピオンシップを狙って行けるようなポジションに行けると思います。毎年そうだけど、レースをするからには選手権を狙っています。でも、正直、僕らは選手権を勝ち取れるレヴェルにはないと思っているんですよね。毎年チームを良くして、今年こそは! と思っているけれど、選手権でトップ5、トップ3に食い込むまではチャンピオンは見えないかな。今年はインディー500での連勝を狙っているし、幾つかの僕らがチームとして得意としているところは優勝を狙って行きたいけれど、その他のレースではチームとして全体的な底上げをして、安定した走りをどのコースに行ってもできるようにして、チャンピオンシップを狙いたい。そのためには、僕もグレアムも毎戦上位で戦えるようじゃないといけない。
「ホンダとシヴォレー、開幕してみないと本当の力関係はわからない」
――開幕前のこれまでのテストを走って来て、ホンダ・エンジン対シヴォレー・エンジンのパワー競争はどんな状況と映っていますか?
佐藤琢磨:昨年ホンダは強かった……といっても、ロードコースでは変わらなかったと思います。インディー500ではブースト圧が上がったことでホンダが強くなっていた。その前の年まで、ハイ・ブーストでのインディーの予選でホンダはライヴァルに歯が立たなかった。それをHPDがすごく頑張ってくれましたよね。感謝しています。そのトレンドが今年も続くと思いたい。でも、去年のインディーの後にシヴォレーの開発陣は、もうやれるところは全部やって来ているはずです。昨年、新エアロのテストをインディーでやった時、レース・パワーでの走行でチーム・ペンスキーが速かったですよ。僕は彼らを引き離せなかった。僕は去年のインディーで勝ったマシンで走ったんですけどね。そして、先日のテキサスでのテストではシヴォレーの方が速かったんですよね。なので、ホンダも本番パワーではなかったんですが、そこら辺は相手も同じでしょうから、開幕してみないとお互いの本当の実力はわからない。
――シヴォレーの方がインディー500の直前まで実力を隠し気味ですしね。
佐藤琢磨:歴史的に、彼らの方が隠し気味ですよね? いまの状況で彼らが隠しているパワーがあるのだとしたら、ちょっと怖いですね。まぁ、現行レギュレーションではやれることがもう限られているので、そんなに急激なパワー・アップを今年の彼らが果たして来るとは考えられないけど……。
「ミスコミュニケ―ションのないシーズンとしたい」
――今シーズン、新しいエンジニアと、まずは”こういうことを実現して行こう”とか話している目標はありますか?
佐藤琢磨:いや、この世界は成績だけだから。すべてはリザルトなので……。ただ、ミスコミュニケーションはないようにしたいですよね。去年までのエンジニアとは3年間やりましたが、最初から馬が合ったというのもあるし、彼は元ドライヴァーでもあったし、僕としてはやり易かった。”言わなくてもわかってる”っていうので、本当に彼はわかっていたから。今年から組むマットは、歴代エンジニアと一緒で、またイギリス出身。そこら辺は僕としては良いんですけど、同じことを話しているつもりが違うことを話しているっていうのはよくあるんですね、レースの世界では。そこは二重、三重に確認して仕事を進めて行こうと考えています。マットの今までのノウハウ、僕の今までのやり方、これらの歯車をいかにして合わせて行くかですよね。あとは価値観。同じもの、起きた事象などを見ても価値観が違えば見え方、捉え方に違いが現れる。それをレースの中で発見し、驚くことは最小限にしたいので、なるべくテストでは事前準備でたくさん話をして、一緒の時間を長く過ごして、同じような考え、価値観になるように合わせ込んで行きたいですね。
――ミーティングが長くなっても嫌がるとかはないエンジニアですか?
佐藤琢磨:そういう感じはないけれど、かといって親友というか、ベスト・メイトになってはいないですよね。前任のエディーよりは僕に世代が近い。僕がイギリスF3を戦っていた時に、彼はフォーテックにいてF3000をやっていたから、同じような時代背景を持っています。当時の僕のことを彼は知っていて……ということで話は合うし、同じイギリスのモータースポーツを経て来ているので、非常に共通項は多いですね。これまでにレースのことも、レース以外のことも色々話して来て、関係は凄く良くなっていると思います。あとはそれをそのままパフォーマンスに繋げることができればいいんだけど、それは正直言って、こればっかりはやってみないとわからないです。
「インディー500を狙う。これは公言していきたい!」
――明日のテストからインディー500までが駆け足で一気に進む。そんなシーズンに対して、佐藤選手はどんな目論見でいますか?
佐藤琢磨:公言したいのは、当然インディー500を狙って行きます、というところ。狙わない理由はないですよね、勿論ね。最初に勝った2017年から翌2018年に向けては環境が大きく変わった(アンドレッティ・オートスポートからレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングに移籍)。ディフェンディング・チャンピオンとしてインディー500に戻って来るっていうことでは、2018年と今年では大分違うんですよ。今年の関しては、去年勝ったパッケージ、同じチームで迎えるインディーになる。勿論、細かいことを言えば、エアロも違うし、エンジニアも違うんですが、少なくとも自分が戦って来た環境で走るわけですから、当然二連覇を最大の目標にしたいですよね。その目標達成は不可能ではないと僕は思っているので。チップ・ガナッシ・レーシングは腹わたがが煮えくり返るようなレースをさせられて、リヴェンジを誓っているでしょう。チーム・ペンスキーだって黙っているわけがない。ロジャー・ペンスキーがオーナーのコース、シリーズにもなったわけですから。アンドレッティ・オートスポート勢だって、勝ちたい気持ちは我々や、これらのチームとい同じぐらいあると思います。戦いはすごいタイトなものになりますよね。その中で勝ちたい。すごくそう思う。だけど、シーズンを通じてどれぐらいコンシスタントに上位につけるかっていうのは、毎年のことながら最大の目標ですよ。でも、ここで”チャンピオンを狙う”とは言いたくないんですよ。そんなに簡単じゃないし、現実的な話をすれば、やっぱりまずランキング3位になれるぐらいコンシスタントになって初めてチャンピオンを狙えるんであって……。1年目からうまく行く場合もありますけど、ここまで自分としては色々と苦労もして来ているので、ある意味、2020年が少しユニークなシーズンになってもいたから、タイトなコンペティションの中で常にトップ5を目指して行きたい。インディー500が来るまでの最初の4戦では凄く大事な勢いが付くから、キッチリとリザルトを残して行きたいです。
――明日、明後日のテストでやるべきことは?
佐藤琢磨:クルマの基礎パフォーマンスをチェックして、エアロのマップをちゃんと作ることが重要ですね。自分たちの風洞でのデータ、HPDから提供されるデータなどがありますが、そこにはズレもあるので、実走行でのデータを照らし合わせて、完璧なエアロ・マップにしないといけない。その作業には途方もない時間のかかるので、明日からのテスト2日間とインディーでの4日間のプラクティスだけでは間に合いません。だから、明日の走行でもうある程度の方向性は見て、そこで組み立て行く感じですよね。
――インディー500用の新エアロの特徴は?
佐藤琢磨:ダウンフォースが増えていますから、マシンに悪いところがあっても、小さなものは見えなくなっちゃいます。それでタイヤのデグラデーションが少なくなっています。誰でも前を走るクルマについて行けるような状況で、抜きつ抜かれつは確かに増えるんだけれど、決勝に関してはダウンフォースを削って行くセッティングになると思います。僕はこのパッケージを試した秋のテストで、”ダウンフォースがつき過ぎ”ってインディーカーに言ったんですが、全部のパーツをつけてダウンフォースを大きくする案が採用されました。それでも、今年のインディーを自分は本当に楽しみにしています。
以上
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