2019年3月10日日曜日

2019 INDYCARレポート R1 ファイアストン・グラン・プリ・オヴ・セイント・ピーターズバーグ:ロバート・ウィッケンズ、開幕戦のピットに現る

セイント・ピーターズバーグのパドックでマリオ・アンドレッティと談笑するウィッケンズ Photo:INDYCAR (Chris Jones)
  昨年ポコノで大きなアクシデントに遭ったロバート・ウィッケンズが開幕戦のファイアストン・グラン・プリ・オヴ・セイント・ピーターズバーグのピットに車椅子(ホイールが去年彼の乗っていたマシンと同じメタリック・レッドにされている!)で現れた。その回復ぶりには目を見張るものがあり、レース復帰はそう遠くない日に実現するかも……との期待を抱かせた。

 ウィッケンズはプレスルームで会見を行ったので、その要旨をお伝えする。

「レースの現場に戻ってこれたことで
何もかもがさらに良くなったように思います」


Q:みんなが聞きたいのは現在の状況、回復の度合い、今の心境でしょう。
ロバート・ウィッケンズ(以下=RW):まず、皆さんにここでまた会えたことを喜んでいます。自分の慣れ親しんだ世界に戻って来ることができて、嬉しい。私は元気にしています。本当に。良い日も悪い日もありますが、レースの現場に戻って来れたことにより、何もかもが更に良くなったように感じています。まだプラクティス1が終わったところですけどね。そして、ピット・ウォールの反対側にいることに何か少し奇妙な感覚を得ているも事実です。

自分がドライヴィングしている時は、エンジニアがマシンをいかに良くするかを考え、話し合っているのはわかっていましたが、自分がそれを外側から聞いていると、その緊張感の高さを感じます。ヘッドセットを着けて、会話に加わって、自分の感じた事や考えた事を時折話す……というのが仕事かな、と考えていましたが、すんなりと自分の居場所を見つけるのに苦労しました。




会見に臨んだウイッケンズ Photo:INDYCAR (Joe Skibninski)
「長い道のり、その終点に辿り着こうと努力しています」

自分自身のことについては、毎日何かが戻って来ています。毎日状態は良くなっています。長い道のり。自分がそういう旅路にあると感じています。100マイルの、ずーっと真っ直ぐな道に景色はなく、その終点に辿り着こうと全力で努力をしています。
そして、私たちは目指す地点に到達するでしょう。一歩ずつ。今の私が言えるのは、それぐらいですね。進歩をしているのは確かです。
脊柱の負傷というのは、もうそれ以上の進歩はしない……という時がいつ訪れるのかわからないものなんです。現在の私は、どれだけ健康な状態に戻れるかに毎日を費やしています。

「みんなのサポートが私を多く勇気づけてくれています」

Q:リハビリには家族やファンからのサポートがありますね?

RW:それは驚くべきものです。多くのサポートをしてもらえる事は、自分自身期待をしていました。しかし、それは自分が想像していたレヴェルを遥かに上回るものとなっています。今回、最初のプラクティス・セッションのためにピットへと向かっている時、私はファンのみんながもっとレーシング・マシンにフォーカスしていると思っていました。自分がファンとしてレースに来ていた頃は、まさにそういう感じでしたからね。ところが、みんなが私のことを気にかけてくれました。私の名前を呼んでくれました。他のチームのクルーたちが、「また会えて嬉しい」と言ってくれたことは嬉しかった。会ったことのない人々、ライヴァル・チームのユニフォームを着た人たち、みんなが私を応援してくれています。これがインディーカーというコミュニティの素晴らしさです。みんながお互いを近しい存在と感じている。そして、ファンの皆さんも本当にファンタスティックです。みんなが凄いサポートしてくれている。素晴らしいことです。それは私を大きく勇気付けてくれています。リハビリがあまりうまく行かないような日、最後の3時間はやりたくない、などと考えることもありますが、そういう時に自分の長期的目標、インディーカーに再び乗るということを考える。そうしたヤル気を再び手に入れることを簡単にしてくれているんです。
Q:医者は何と言っていますか?
RW:脊柱の負傷は人それぞれで症状が異なります。私はやれることをすべて全力でやっています。それは、私の人生におけるフィロソフィが、”より頑張った人が、より良い結果を手にする”というものだからです。自分が一番頑張っている。そういう状況になるよう全力を注ぐ。そうすれば負けることはない。私はこれまでずっと、そう考えて来ました。それが私の両親の育て方でした。今日もその考え方で頑張っています。それが正しいのか、間違っているのかはわかりません。私の隣に、私と同じ脊柱の負傷をしている人で、ファストフードを食べて、毎日病院のベッドに寝ているだけの人がいて、その人が私より早く歩けるようになる場合だって有り得るんです。
ドクターたちは、私が一生懸命に頑張り過ぎているのを知っています。”少し休みなさい”とみんなが言います。しかし、彼らは同時に、”今やっている事をやり続けなさい”とも言います。成果が出ているからです。私は今、1日4~6時間のリハビリ・プログラムを1週間で6日間行なっています。それは大変ですが、オフの日曜日を楽しんでもいます。
今やっている事、それによって得られている結果に意味があるのかはわかりません。もし私が、もうちょっと頑張ったら、あるいは逆に、もうちょっと頑張らずにいたとして、結果が変わって来るかは誰にもわからないんです。

NBCのインタビュイーに応える。ドライバー、インディーカー関係者、メディア、そしてファン……ウィッケンズはパドックで多くの人に温かく迎えられた Photo:INDYCAR(Chris Jones)
「毎週、進歩が確認されています」

Q:最近の2ヶ月ぐらいの間に、大きな進歩があったようですが?
RW:それ以前から進歩はありました。筋肉に最初の反応があったのは10月でした。それは大きな事でした。しかし、それは小さな反応でもありました。
その後、少し良くなりました。今では自分の足で立てるまでになっています。未来への展望が開けています。6~9ヶ月、あるいは6~12ヶ月の期間に大きな進歩がある、と言われて来ました。今の私は、その最初の期間にあると思います。回復のピークが早く来過ぎない事を願っています。
今の私は、事故からちょうど6ヵ月ほどが経過したところです。毎週、進歩が確認されています。どんどん進化が加速している、とは思いません。しかし、着実な進歩を遂げています。
毎週、私たちには小さな進歩があります。フィアンセのカーリーと毎月の初めに何ができるかを記録して来ています。それを読み返すと、驚きます。自分が2月1日から3月1日までに何をしていたか。1月1日には何ができたのか……。毎月、大きな進歩をコンスタントに遂げて来ているんです。

「私の目標はインディーカーに乗ること」

Q:いつかまたレースをしたい。それを今も考えているんですか? それはなぜですか?

RW:そうです。100パーセント、そう考えています。私の目標は、インディーカーにまた乗る事です。実現できるかはわかりません。それとは別の話ですが、これまでに手でコントロールするマシンでモータースポーツ界での成功を収めたドライヴァーが世間にはたくさんいます。だから、私の体の回復がどう進んだとしても、私は再びレーシング・カーに乗ることはできると思います。あとは、乗れるマシンがどのようなものになるか、だけです。私の夢は、インディーカーに再び乗る事です。
 チームは、私がレースに復帰するためのいマシンは常に用意されている、と言って来てくれています。しかし同時に、私たちはルールに従う必要もあります。私が乗るために、マシンにどれだけの改造を施して良いのか、などといった事です。もし、私がマシンに乗れるような状況に到達した時には、そのような条件をクリアする必要があります。
「なぜ?」という質問への答えは、「インディーカーでまたレースをする。それが自分の考えている唯一のことだからです。それが最も大事な事なんです。子供の頃から、私は自分が人生で何をしたいのかをわかっていました。9歳か10歳の頃、両親に“レーシング・ドライヴァーになりたい”と告げました。人類で初めて火星に行く……とも言っていました。
 事故の後、みんなが”またレースができなかったとしても、あなたは違う世界ででも何か凄い事をやってのけるだろう”と言ってくれました。”ハード・ワーカーのあなたなら、どこかに居場所を見つける事でしょう”、と。しかし、それを聞いても私はハッピーにはなれなかった。どこか新しい場所で、9時から5時までの仕事をしたくはない。レーシング・ドライヴァーとして頑張りたい。ハンド・コントロールなど、何か新しい事を学ぶ必要があるとしても。それなら私はハード・ワークをこなす事が可能であろうから。
ビリー・ウィズ、アレックス・ザナルディ、彼らはハンド・コントロールのレーシング・マシンで素晴らしい成績を残しています。ザナルディはモータースポーツでの事故からレースに戻って来ました。彼の今年のデイトナ24時間レース参戦を見ました。彼が昨年DTMで、テストもせずにトップ10に入ったのも見ました。
 何だって可能なんです。私は自分がハード・ワーカーであるとわかっています。分析をうまく行なって生きて行くタイプでもあります。ハンド・コントロールはマスターできるでしょう。私が恐れるのは、私は常に、以前と同じようにレースをしていと考えている事です。事故の前とまったく同じレヴェルで戦える事を期待しています。ただインディーカーにまた出場したいのではないんです。去年と同じように、競い合って、表彰台を勝ち取る事を目指したいんだ。

Q:つい最近、飛行機に乗っている映像を見ましたが、旅行をする大変さは?

RW:今回が事故以来初めて飛行機に座って移動をしました。それ以前のフライトは、医療用の飛行機でストレッチャーに寝た状態でした。これまでのところ、国内を移動することは何の問題にもなっていません。ウーバーやタクシーも、車椅子から乗り換えて使っています。移動にはあまり障害はありません。車椅子を畳んでクルマに積んでくれるリックの方が仕事としてはハードだと思います。

Q:結婚式ではダンスをするつもりですか?

RW:アクシデント前でも、僕のはダンスと呼べるものじゃなかった。

「サムは私のためにベストな手配をしてくれた」

Q:サム・シュミットはチーム・オーナーとして、友人として、どれだけ助けになっていますか?

RW:サムは最初から本当に大きな助けになってくれています。彼は良い医師、手術に優れた人々を知っていました。病院に到着する前に、サムはもう全部をチェックしてあったぐらいです。私が何もわかっていない時期から、彼は私にとってベストの治療が行なわれるよう手配をしてくれていました。彼は自身が怪我をしたため、多くの知識があるんです。彼は多くのリハビリ病院にも出かけ、私がそこに入るまでに、すべてを把握していました。そうして、私の通う病院が決まりました。私が信頼する医師が推薦してくれた病院に行く……というのではなく、みんなで、チームとしてリハビリ先は決定しました。そして、我々の選択は間違っていませんでした。
そこから前進は始まりました。彼が何をしてくれたか、それを言葉で説明するのは難しい。私がまだ気づいていないことも、彼は多くやってくれているはずです。

「モータースポーツ・コミュニティ全体のために、
この旅を終わらせたいと考えています」


あくまで前向きな姿勢を失わないウィッケンズの回復を祈らずにはいられない Photo:INDYCAR (James Black)
Q:あなたと同じようなアクシデントに遭い、負傷したドライヴァーたちも接触して来ましたか?

RW:はい。それもまた本当に驚くべきものがありました。モータースポーツの世界というのは、非常にお互いに助け合うところだだ、というのは前々から知っていました。自分自身、誰かがアクシデントで怪我をした時には、支援をする気持ちがありました。それが直接知らないドライヴァーであっても。誰かが亡くなったと知った時には、遺族に手を差し伸べるのは良いことだと思います。その反対側の立場になったことは、何か特別なことであると感じています。未だに、アクシデントが起きた直後と同じように、私に対して皆さんがしてくれているサポートが、どれほどの意味を持つものになるのかが私にはわかっていません。あの日以来、まだ私はインディアナポリスの自宅に戻っていません。カーリーから、そしてチームの人々から話は聞いているのは、幾つもの箱に入った手紙が、開封されるのを待っていることです。皆さんの支援はファンタスティックです。
 モータースポーツの世界の、有名な人たちから無名の人たちまで、すべてのドライヴァーたちから私が発信する情報、私の成し遂げた進歩に対してサポートがあり、私はそれを回復への動機付けとしています。それらが、”私にならできる”と後押しをしてくれているんです。
 ドライヴァーたちの手助けは私に、”自分の回復のための努力をもっとしよう”と思わせます。私は自分自身のためだけでなく、モータースポーツ・コミュニティ全体のために、この旅を終わらせたいと、より大きな捉え方をしています。絶対に途中で終わらせたくはありません。
以上


1 件のコメント:

  1. これを読んで、涙が出ました。ケガをしただけでも、すごく苦しくてつらいことなのに…。笑顔を見たときは、なんて強い人なんだろうと思いました。レーサーは、こうなければなんて思っていても人間はちっぽけで弱く一人では何もできない生き物です。でも、大ケガをのりこえて見せる笑顔は強くとても素敵です。絶対戻ってきてほしい。あわてず、少しずつ。待っています、そして応援しています‼

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