レッド・ブル・エア・レースの2017年シーズンのチャンピオンとなった室屋義英選手と応援に駆け付けた佐藤琢磨専守。二人の歴史的な日本人ウイナーが今年、インディアナポリスから生まれた Photo:Masahiko Amano クリックして拡大 |
室屋選手がシーズン4勝目をあげ世界チャンピオンに
天候:雨のち曇り
気温:8℃
雨の後には風。もうレースは行えないかも……と心配になる天気でした。雨天順延がエア・レースにはなく、もしそうなったら予選結果が正式結果になって、ポイントは半分だけが与えられるルールとか。それじゃあまりに尻切れトンボ。トップカテゴリーのチャンピオン争いは是非とも最後まで戦い抜いて欲しい、と会場のみんなが願ってました、メディアも含めて。
そして午後2時過ぎ、無事に競技が開始され、ラウンド・オブ14、ラウンド・オブ8、ファイナル4の3段階が無事にすべて行われたワケですが、「こんなシナリオ書けないよ!」というぐらいにドラマティックな展開になってましたね。手に汗握る、とはまさにこのこと。逆転、また逆転でハラハラ・ドキドキした末、予選11位だった室屋義秀選手が4勝目(年間8戦の半分勝っちゃった!)を挙げて日本人として初めてエア・レースのワールド・チャンピオンに輝きました。おめでとう!
最終戦にタイトルの可能性を残すパイロットは4名
優勝しても自力タイトル獲得は無理という戦いに挑んだ室屋選手
レース前にポイント・リーダー(マルティン・ソンカ選手)に4点の差をつけられたランキング2番手だった室屋。ハッキリ言って「勝つっきゃない!」に近い状況でした。しかし、予選は11位。吸気系トラブルでエンジンがマックス・パワーを発揮してなかったそう。しかし、夜遅くまでかかった作業のおかげで決勝日のエンジンはバッチリ復調。気温が下がり、風も吹くコンディションとなって、経験、冷静さ、度胸、勝負強さが試される戦いになり、それを制したのが室屋と彼らチーム・ファルケンでした。
強風で難しいコンディションの中で迎えたラウンド・オブ14
ポイントリーダーのソンカ選手に先攻で対戦するもペナルティ
室屋の勝負強さは、母国開催の千葉大会でキャリア初優勝(2016年)し、今年は同イベントでの2連覇を達成したってところに出てますよね。地元で勝てるのは”強いアスリート”の証。「この難しいコンディションで、今日は多くの選手がペナルティを受けることになると考えていた」と室屋は話してました。彼自身、最初のアタックでゲート進入角度によりプラス2秒のペナルティを課せられました。しかも、その時の対戦相手はチャンピオンの座を争うソンカその人。室屋のタイトルのチャンスは潰えたかと思いましたよ。
ところが、確実にアタックをコンプリートすれば勝てていたポイント・リーダーのソンカが、まさかのパイロン・ヒットをファイナル・ラップにやらかしちゃうんですから、勝負ってわからないですよね。そちらは進入姿勢より重大なペナルティ=プラス3秒なので、室屋がこのラウンドのウィナーになれました。1回の戦いで立場はクルリと逆転、室屋がチャンピオンへ……との流れに変わりました。
ソンカ選手、敗者復活ルールでラウンド・オブ8に進出
予選1位のホール選手を下してファイナル4で室屋選手との決戦に
風を受けてラインが乱れちゃったんですね、ソンカ。このままラウンド・オブ14での敗退となったら室屋がチャンピオン……という事態となりました。しかし、そう簡単に決着はつかないもので、ファステスト・ルーザーっていう特別枠でソンカはラウンド・オブ8に駒を進め、予選1位だった選手を打ち負かしてのファイナル4進出という大奮闘を見せたんです。
またソンカが有利な立場になったかも……。そう思えました。室屋は勝たなきゃならない。彼がそうできな勝った場合、ソンカは3位以上でチャンピオン。
ファーストアタッカーとしてファイナル4に挑んだ室屋選手
驚異的なラップタイムをマーク! ラストアタックのソンカ選手まさかの4位
ここでおもしろかったのは、残った4人のアタックは、室屋が最初で、ソンカは正反対の4番手となったところでした。そして、室屋は思い切り良いアタックで1分03秒026という驚異的タイムをマーク! 会場がどよめいたのは、決勝日に出た初の3秒台だったからです。
この後、タイトル争いに関係のない二人(失礼!)がアタック。そして最後の最後、ソンカが飛ぶ時がやって来ました。4機中の2番手に入ればチャンピオンになれる状況。ところが、彼はまさかの4番手に終わってしまうんです。最下位のタイムしか出せなかったのは、ミスを恐れて慎重になり過ぎていたから……と私には見えました。初のエア・レース観戦でしたけど。
チャンピオンにふさわしいフライトを見せた室屋選手
「いろいろな条件が良い方向に働いて物理的に不可能なタイムが出ました」
チャンピオン・トロフィーを手に、ポディウムで喜びを爆発させる室屋選手 Photo:IMS クリックして拡大 |
「風は変わるし、乱気流もあり、難しいコンディションでした。1分04秒を切るのは物理的に不可能なはずでした。エア・レースっていうのは物理学でもありますからね。それで、数字を知った時には計測機器が壊れているんだと思いました。風とか色々な条件が良い方に影響して03秒台は出たんだと思います」と室屋は振り返っていました。
決勝日の難しいコンディションが室屋選手の強さを引き出した
タクティシャンとコンディションに合わせたフライト・ラインを検討し、ゲートへの最良のアタック・アングルを導き出す。そして、パイロットは作り上げたプランにできる限り近いフライトの実現を目指します。室屋はハンガー内にレッド・ブルの缶を立ててコース・レイアウトを作り、自らの体を使ってコースのシミュレーションを繰り返すと聞きました。操縦桿を動かしながらハンガー内で頭にイメージを叩き込もうとする彼の姿を映像で一瞬見ることができました。エア・レースは三次元の世界ですが、シミュレーションは地面という平面の上=二次元で行うワケで、そのあたりがきっと難しいんだと思います。
いずれにせよ、決勝日のコンディションが難しくなったことが今回の大きなポイントでしたね。予選までと同じコンディションが続いていたら、予選で上位だった面々がフライトにさらに磨きをかけ、室屋に勝つチャンスはなくなっていたかもしれません。「気温が低くなれ……と考えていました。そうなれば自分たちは速くなる。コンディションが変わることで自分たちは有利になる、と。実際に今日の天気がそうなって、積み重ねて来た経験とか、テクニックとかが活きたところはあると思います」と室屋本人も語ってました。寒いコンディションの方が彼らのエンジンはより大きなパワーを出してくれるってことでしょうか。
「タイトル獲得を獲得を2度、3度と続けたい
まだまだ技術を磨いていきたい」
室屋選手のミラクルな勝利に、佐藤琢磨選手も大興奮!「同じ年に、同じインディで頂点に立つ!信じられないような瞬間です。本当に誇らしい」 Photo:IMS クリックして拡大 |
まさか初取材のエア・レースで、こんなにエキサイティングなバトル、そして日本人選手の優勝、タイトル獲得という凄い結末まで経験させてもらえるとは思いもよりませんでした。しかも、その舞台はインディアナポリス・モーター・スピードウェイ! 佐藤琢磨の優勝したインディ500といい、忘れられない年になりますね、2017年は。
以上
中継に映ってましたよ。
返信削除ブログご愛読ありがとうございます。「なるべく映らないようにしてたのですが」とジャック・アマノが語っておりました。本日のトーチュウにレッドブル・エア・レースの記事が掲載されておりますので、読んでいただけると幸いです。(編集部)
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