2012年11月23日金曜日

2012-13 INDYCAR オフシーズン情報 11月6日 ランディー・バーナード解任問題その3 バーナード緊急排除の背景に迫る

バーナード排除の陰にちらつくスポンサーの陰 

 ランディー・バーナードがインディーカー・シリーズのCEOから引きずり降ろされた(既報)。この更迭は、なぜだか世間がビックリするほど唐突かつ強引に行われた。インディーカーは自らの評判がガタ落ちになる可能性も顧みず、「とにかくバーナードを放り出せ!」と行動した。
 先日、このドタバタ劇の裏をアメリカのメディアが報じた。記事の内容は信憑性が高いように感じられた。バーナードが排除されることとなったのは10月最終週だったが、発表がなされる直前、インディーカーはシリーズに大口の支援をしている企業のひとつから、「どっちの方向性に進むにせよ、シリーズ内部の混乱にケリをつけろ。さもなければ私たちは手を引く」と迫られたのだという。すると役員会は、自分たちが選んでCEOの座に据えた男をいともアッサリ、無慈悲に放出することを決定、バーナードにそれを伝えた。「シリーズをサポートしてくれる=大枚をはたいてくれる企業を失うぐらいだったら何でもしますよ」ということだ。彼らはアタフタと、善後策の検討もなくトップ人事の変更を世間に発表した。バーナードは開いた口が塞がらなかったと思う。自分を守ってくれると信じていた役員会が突然心変わりし、彼を切る立場に翻った。「今までの苦労は何だったんだ?」、「もうやってられない」と彼はアドバイザーに引き下がることを了承、もうインディーカーとは関わらないと決めたのかもしれない。


発端はトニー・ジョージとオーナーによるインディーカー買収計画

 役員会にプレッシャーがかかったのは、10月に入ってトニー・ジョージが他のオーナーたちとインディーカー・シリーズの買収を計画している話が明らかになったところに原因がありそうだ。シリーズの売却はされなかったが、そうした動きが起こったのは、多くのチームオーナーたちがバーナードのやり方に強く反対しているからだった。
 買収計画の中心人物がジョージであることは、話をややこしくしていた。ジョージの王座復権を望まない声は世間、特にファンの間に強いからだ。盛況だったインディーカー・ワールド・シリーズに嫉妬してインディー・レーシング・リーグを発足、アメリカのトップオープンホイールを分裂、衰退させたのがジョージで、彼をインディーカーのトップから外したのは、彼の経営手腕に疑問を持った彼の家族を主とするIMS役員会だった。

オーナーたちの不満がすでに抜き差しならなくなっていた!


 今回の買収計画の原動力は、ジョージが自らのエゴを満たすことではない。インディーカーにおける権力を彼が取り戻したくて起こした騒動ではないのだ。当初はそう捉えられていたし、実際にそうした動機がジョージの中に皆無だとは考えにくいが、それよりもオーナーたちの意向が強く反映されていたようだ。「もはやバーナードがCEOで居続けることは容認できない」というところまでオーナーたちの怒りは達していたのだという。
 しかし、オーナーたちにバーナードのクビを切る権限はない。バーナードを雇っているのはインディーカーの親会社=インディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)だからだ。それでもバーナードが放り出されることになったのは、オーナーたちやドライバーたちの置かれた状況、彼らのシリーズとの関係が修復不能なほどに悪化していたからだ。オーナーたちは、バーナードとの交渉を停止して役員たちに直接窮状を訴えるようになっていたという。ドライバーたちの中にもそういう動きは出ていたようだ。そんな状況を見かねたスポンサー企業が資金引き上げを仄めかし、バーナードはIMS役員会に見放されることとなった。オーナーたちの訴えの方が、役員会にとって正当性のあるもの=彼らの利益に叶うものに変わってしまったからだ。

改革の成功と裏腹に芽生えた不信感


 バーナードがドライバーたちとの信頼関係をも大きく揺るがせてしまった。それが今回の退陣劇の最終的な引き金になったと考えることはできる。ダブルファイル・リスタートの採用はドライバーたちの一部に不信感を芽生えさせていたが、ファイアストンを切ってコンチネンタルにタイヤの供給元をスイッチするという噂(2012年シーズン閉幕後に発覚)は、多くのドライバーたちに「我々の安全よりプロモーションや話題性、利益を優先するCEO」という印象を与え、トップ交代を望む声がドライバーたちの間からも聞かれるようになったのだという。
 2010年シーズンの開幕前にインディーカーのCEOに就任したバーナードは、 2年半という短期間でシリーズを大きく変えた。新シャシーの導入、複数メーカーが参戦してのエンジン競争の再開、新しいイベントの実現、奨学制度の充実など、彼の功績は数多くある。CART時代にまで遡っても、ここまでの仕事を成し遂げたトップはいない。外からの血の導入は失敗ではなかったと思う。

 暫定CEO濃厚のベスルカスにかわる、真のトップは一体誰に?


 IMSの役員会は、IMS社長のジェフ・ベルスカスをバーナードの後任のCEOに据えたが、それは誰の目にも暫定的な処置だ。CEOの不在感は強く残されたままで、インディーカーが2013年から進むべき道は明らかにされていない。これまでのインディーカー経営陣は、シリーズの顔として働いてもらうCEO個人が持つビジョンやリーダーシップに頼り切りで、インディーカーという伝統ある素晴らしいスポーツの未来像を自らが持って来なかった。バーナード以上のCEO発掘がかなり難しいであると判明した今、彼らは自分たちでインディーカーの将来について一度深く考え、どんなプランを持って前身を続けて行くのか、方向性をキッチリと打ち出す必要がある。

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