2012年9月14日金曜日

2012 INDYCAR R15 MAV TV 500 プレビュー: 鍵握る空力パッケージのさじ加減。タイトル争いはもちろん、エンジン戦争の行方など見どころ満載。琢磨のトップ争いも期待大


エアロパッケージ決定はレース直前

Jack Amano(以下JA):早いねー、もう最終戦だ。

編集部(以下――):フォンタナ(オートクラブ・スピードウェイ)はどんなレースになるだろう?

JA:全然読めない。まず、空力ルールがどうなるんだか……。

――佐藤琢磨選手がテストした時点では決まってなかった。

JA:そう。彼がテストしたのはソノマのレースの前だったから。でも、走る仕様が決まってない状態でテスト……って、コースを知るってことはできたんだろうけど。

――もっとルールは早く決まってるべきだよね。

JA:まったくその通り。でも、今年は仕方が無い面もある。新シャシーが導入されたから。あと、ダン・ウェルドンが亡くなって高速集団レースは二度とやらないって考えにインディーカー全体がなった。フォンタナについても、インディーカーがエアロパッケージを幾つか用意して、テスト参加チームに別々のものをトライしてもらって検討を重ねて来てるみたいだね。インディーカーは各マシンの走行タイム、タイヤのコンディション、ドライバーからのフィードバックなどを総合的に見て、空力仕様を決めようってこと。ボルティモアの後にもテストが行なわれたけど、ルールの最終決定はレース直前になる。レースウィークエンド目前の水曜にテストがあるので、そこで全ドライバーに同じ仕様で走ってもらって合意を取り付けて……みたいな感じと思う。翌々日の金曜に公式プラクティス開始となるワケだけど。

テキサスのようなスリリングなレースを期待

――今年のIZODインディーカー・シリーズ、オーバル戦はどれもおもしろかったもんね? ロードコースも……だけど。

JA:インディーカーのエアロパッケージ・コントロールはかなり上手だった。技術面を統括するよう雇われたウィル・フィリップスって元シャシーデザイナーがいい仕事をしてる。エンジンのルールに関しては、プッシュ・トゥ・パスのディレイとかイマイチのもあったけど。

――フォンタナは2マイル・オーバルだから、基本的にはインディアナポリス・モーター・スピードウェイと似たエアロ・パッケージってことなんだよね?

JA:そうなると思う。でも、インディーとまったく同一にはならないって話。どんな調整を、どんな理由で行って来るのか。そこがまだ見えてない。「ダウンフォースを削り過ぎては危険」て意見もある。あまり削るとオーバーテイクがなくなって、あり過ぎるとパックレーシングになっちゃう。そのサジ加減は実に難しい。

――いずれにせよ、抜きつ抜かれつのバトルが見られる。

JA:去年までの1.5マイル・オーバルみたいな集団走行にならずに、ね。期待してんのは、今年のテキサスみたいなバトル。めちゃスリリングだったよね。速く走るにはウデが要って、ミスの許容度がメチャクチャ小さい。かなり理想的だった。

――あんな凄い戦いになるとは! って嬉しい驚きだった。それがフォンタナでは500マイルレースで行われる。

JA:作戦も、ピット・ストップも重要度高し! あと、琢磨選手が驚いていた路面のバンピーさ。これがレースをさらに難しくすると思う。

――超高速オーバルなのにバンピーって理解に苦しむけど。

JA:NASCAR専用コースみたいになってたからね、最近のフォンタナは。ストックカーのレースって路面のクォリティを必要としない。むしバンピーな方がいいぐらいでしょ。でも、インディーカーのレースをやるなら路面の管理は要求される。ウルトラスムーズじゃなくてもいいんだよ。ひとつやふたつのバンプはコースのキャラクターってコトで受け入れられるから。でも、「凄いバンピー!」なんてコメントされてるようじゃ困る。

フォンタナ開催に潜むINDYCARのNASCARに対する思惑

――フォンタナでやることになったのって、結構唐突だったよね?

JA:インディーカーとしては、NASCARとの対決状況を少しマイルドにしたかったんでしょ。ワトキンス・グレンとかカンザス、シカゴとNASCAR系からレースを全部引き上げた。あのランディー・バーナードの戦略は間違ってなかったと思う。でも、それを緩和するのが早過ぎと思う。そもそも俺は、「NASCARとの全面対決での勝利なくしてインディーカーは繁栄奪回は不可能」って意見だから。

――しかし、NASCARはかなり手強い相手。

JA:ホントに。最近発表されたスポーツカーの一件を見れば明らかだよね。アメリカン・ル・マン・シリーズを運営するIMSA=インターナショナル・モーター・スポーツ・アソシエーションを買い取っちゃったんだから、NASCARは。自分たちのダサいスポーツカー・シリーズ=グランダムをアメリカのスポーツカー・レースのメインにしようって魂胆。スポーツカーは魅力の無いレースに格下げされ、自分たちのストックカーだけが繁栄を続けるという超利己的シナリオ。ル・マンとの関係も徐々にフェード・アウトさせて行く気じゃないの? ヨーロッパのアメリカに対する影響力を排除するってのが彼らの長期プランでしょ。俺がアメリカにフリーで渡った90年にでさえ、そういう考えに基づく行動、あったもん。彼らはF1ともグルじゃないかな。利益が共通してるから。インディーカーは90年代にF1を少々ビビらせた。海外進出とかハデにやって。それで彼らのタッグにヤッツケられた。スポーツカー・レースはある意味、インディーカー以上にF1にとっちゃ厄介な存在なんだ。ハイブリッドだとか今年のデルタウィングとかの新しいもの、世界の人々が求めている技術の受け入れが可能な構造になってるから。F1にそんな柔軟性ってない。……って、フォンタナのインディーカーの話から随分逸れちゃった。

パワーvsハンター‐レイ、チャンピオン争いの行方は?

――フォンタナはチャンピオン争いが第一の焦点。

JA:ウィル・パワーとライアン・ハンター-レイ(RHR)の対決だ。ランク3、4位は上位二人が出場しないとかじゃないと逆転タイトルの目はない。

――どっちが有利?

JA:ポイント上位のパワーが有利だけど、その差はほとんどゼロでしょ。上位でフィニッシュした方がチャンピオンてことじゃないのかな? 片方がクラッシュするとか。

――両方とも不運なタイプのドライバーだけど、幸運を手にするのはどっちか??

JA:プレッシャーが大きいのはパワーの方だろうなぁ。この2年続けて獲り逃してるタイトルだから。RHRは当たって砕けろってスタンスでオッケーでしょ。

――チーム体制、今年のオーバルでの実績からするとRHR優位じゃない?

JA:RHRはオーバルで勝ってるから? でも、ミルウォーキーとアイオワっていうフォンタナとは全然キャラの違うコースじゃん。それでも、「オラはオーバルで勝ってる。ヤツは勝ってねぇ」って考え方、してるかもね。あんまり論理的じゃなくても、精神的にプラスの影響があるかも。

――インディー500ではRHRが駆動系トラブルで27位。パワーはクラッシュで28位だった。

JA:パワーはオーバルでのアクシデントが多過ぎ。速さはもう完全に身につけてんだけどね。去年のインディーでのポール争いも素晴らしかったし、去年のテキサスでの第二レースではオーバル初勝利も飾ってる。ケンタッキーでもメチャ速かった。テキサスの勝利はグリッドがクジ引きで、強敵が最後尾に近いグリッドになってたからっていうラッキーもあったけど。フォンタナでは絶対にクラッシュだけは避けないと。

――マシンの仕上がりって面で、チーム比較をするとどうなる?

JA:インディー500ではライアン・ブリスコーが5位フィニッシュしてて、ペンスキーのマシンは良かったと思う。でも、RHRのチームメイトのジェイムズ・ヒンチクリフも6位。チーム力的には互角かな? テキサスでもブリスコーが3位、ヒンチが4位だった。

――彼らは優勝争いに絡むのかな?

JA:どうだろうね? チャンピオン争いがレースの優勝争いとシンクロするのがベストだけど、そうならない可能性も十分ある。例えば、チップ・ガナッシ・レーシングがインディー500同様に大活躍するとか。

ホンダ勢、全車新スペック投入! シボレーはどうなる??

――最終戦はホンダとしても勝ちたいレースだ。

JA:今年はインディー500で勝ったホンダだったけど、シーズンを通してシボレー勢が速かった。エンジンの差というより、チーム力の差が強く影響していたと思うけど。フォンタナでは勝ち負けだけじゃなく、レース中のホンダとシボレーのエンジン・パフォーマンスにも注目したいね。インディーに続いてフォンタナでもホンダ勢優位となるのか? パワー&燃費がどういう差になってるのかはミモノだね。

――ホンダ勢は予選終了後に新スペックを全チームに導入するって話だよね?

JA:そう。全員に10グリッド降格を受け入れさせちゃう。でも、シボレーも同じく最新スペックで勝負を仕掛けて来るって噂もある。両陣営がグリッド降格ペナルティだったら、ペナルティはナシとほぼ同じになる。でも、チャンピオン争いをしている2名がいるシボレーとしては、新スペックを投入するのってリスクかも。パワーでホンダに対抗しようとして、タイトル候補がエンジン・トラブルでリタイア……なんて逆の宣伝効果を発揮しちゃいそう。

――そこは難しい選択だ。より耐久性で安心なものをチャンピオン候補たちには使わせたい。でも、パワー追求をしたエンジンでないとホンダ勢に負けちゃうかもしれない。

JA:そうだよね。フォンタナはアメリカン・ホンダにとっちゃ地元。4月のロング・ビーチで負けてる身としては、今回は勝ちたいモードがかなり高い。年間優勝数でもシボレーが10勝、ホンダ4勝と水を開けられてるし、来年に向けて良いムードを作るためにも最終戦は勝ちたいとこでしょう。

佐藤琢磨、優勝に向けて今シーズン最後の戦い

――琢磨はどんなレースができそうかな?

JA:テストでの感触は今ひとつだった風。2台での走行はアブナっかしくて無理だったっていうから、インディーカーに依頼されてたエアロ・パッケージが結構エグかったんだろうけど、マシンの仕上がり自体はまだ全然進んでないってことなんだと思う。ルールが決まらないと進め切れない部分でもあるし。で、ボルティモアの後にはテストに行けなかった。琢磨に期待ができるのは、インディー500で優勝にあと一歩のところまで行った、あのパフォーマンス。まずはロー・ダウンフォースで走る超高速オーバルでのレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのベース・セッティング、その競争力が高いことと期待したい。フォンタナはインディーみたく走り込んで戦えるレースじゃない。そこはデータ解析力の高い琢磨&RLLとしては苦しいところ。でも、琢磨はパワーと同じで、アクシデントさえ起こさなければかなり速いから。オーバルは経験が重要なのは確かだけど、3シーズン目という限られた経験の中で獲得したノウハウはかなり濃いものがある。初めて走ったオーバルででさえ、どうやったらライバルを抜けるか、オーバーテイクの手法をレース中に習得して行ってた。今や、もう十分にトップ争いのできるオーバル・ドライバーになってる。

――最終戦で優勝! なんてなったら最高。

JA:初ポールもオーバルだったし、オーバルで初勝利という可能性はあるんじゃない?

以上

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