2012年7月25日水曜日


佐藤琢磨の2位フィニッシュは自己ベスト更新、歴代日本人の最上位タイ
そして、1シーズン複数回表彰台は日本人として初の快挙だ
Photo:Masahiko Amano\Amano e Associati
優勝のカストロネベスはブラックタイヤでスタート 佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング=RLL)が、エドモントンでの第11戦で自己ベストとなる2位フィニッシュを記録した。今年2回目の表彰台だ。そして、今日のレースでの彼の戦いぶりは、まさしく優勝まであと一歩というものだった。
 しかし、2位と1位の間にある差は、3位と2位の間にあるものより遥かに大きい。エドモントンでの第11戦は、それを痛感させられるレースともなっていた。5番手スタートで優勝したエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)と、2位フィニッシュだった琢磨、両陣営の差は、例えばタイヤマネジメントに現れていた。
 今回のレースは非常に稀なケースで、予選の第2セグメントがウェットコンディションとなって、多くのトップコンテンダーたちがフレッシュレッドを2セット持って決勝スタートを迎えていた。普段通りに3セグメントがフルにドライで争われていたら、セグメント1敗退の後方グリッド組はフレッシュレッドを2セット有しているものの、それ以外のドライバーたちは決勝で使えるフレッシュレッドは1セットのみとなる。
 予選でトップ6に食い込んで上位グリッドから戦うレースを豊富に経験して来ているペンスキーと、今回がロードコースでのトップ6入りが初めてだったRLL、その差がエドモントンでは出ていた。


経験値の少ないRLLにとって、正攻法のレッドスタートは誤りではない
 ブラックでのスタートが正解。それは結果論だ。今回の場合、ペンスキーは様々な経験を踏まえてブラックでスタートする作戦を選んだ。近頃は脱セオリーで、ブラックスタートに勝機を見出そうとするチームが増えている。実際、今回のレースではブラック装着でスタートしたチームの方が明らかに多かったほどなのだ。以前なら、ある程度中団に埋もれている、あるいは後方グリッドからスタートするチームがブラックスタートを選ぶパターンだったが、トロントで6番手スタートからライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)が優勝したように、近頃では上位グリッドでも敢えてライバルたちと異なる作戦を選ぶケースが出て来ているのだ。
 RLLはといえば、レッドでスタートして上位のポジションを保ち、順位の安定する中盤はブラックで戦い、勝負どころとなる可能性の高い終盤はまたレッドで……というオーソドックスな戦い方を採用していた。ドライバー、チームともども上位スタートの経験値の少ない彼らとすれば、まずはセオリー通りに戦い、データやノウハウをチーム内に蓄積させる必要があるからだ。
 3年連続、合計4度のタイトル獲得経験を誇るダリオ・フランキッティを擁するチップ・ガナッシ・レーシングでさえ、今日のレースをポールからスタートするにあたり、レッドでのスタートを選んでいた。オーソドックスな作戦とは、つまりは理論的に正しい作戦だからだ。そして、彼らや琢磨陣営のようにオーソドックスな作戦を多くのチームが採用するからこそ、奇襲的に異なる作戦を選ぶチームが現われるのだ。


ピット作業でもアドバンテージがあったペンスキー
 ペンスキーは3カー体制を活かし、フロント・ロー・スタートのライアン・ブリスコーにはセオリー通り、つまり琢磨と同様のレッドスタートをさせ、5番手スタートだったエリオと、17番手スタートだったウィル・パワーのふたりにはブラックスタートを選択させた。5番手という上位スタートのエリオにブラックを履かせた大胆さが今回は見事に当たったということだ。
 その一方でRLLは1カー体制で戦っており、作戦を分散させることは不可能。経験の量からしても、今回はオーソドックスな作戦を選ぶのが当然だった。そして、同じ作戦を選んだチーム群の中で、琢磨とRLLは最良の結果を手に入れた。
 作戦以外でも、ペンスキーは確実かつ迅速なピットストップでRLLよりも優位にあった。エドモントンでは2回のピット・ストップが両方ともグリーン下で行われていた。小さなタイム差が如実にコース上での差に繋がる状況だったのだ。RLLもこのオフに作り上げたチームとしてはピット・ストップのクォリティーは高く、今回もミスはなかった。しかし、カストロネベスが1回目のピットストップで琢磨の前に出て、2回目のピットではタグリアーニの前に出た。それは彼らのピット作業の速さによってだっただろう。


2位という経験が、RLL優勝へのジャンピングボートに
 ジャスティン・ウィルソンとデイル・コイン・レーシングがテキサスで勝利したように、ペンスキーやガナッシといえども倒せない相手ではない。今、インディーカー・シリーズの競争は益々激しく、ハイクォリティになっている。ほんの小さなアドバンテージが優勝をもたらし、ごく小さな不利によって勝利から遠ざかってしまう。今回、琢磨とRLLはひとつ大きな経験を彼らの中に積み上げた。今後は作戦にも今まで以上の幅が生まれ、より広く、深く様々な要素を検討した上でレースの戦い方が選ばれて行くようになるだろう。それは彼らが、また一歩チームとしてのレベルを上げるということだ。残る4戦のうち、3レースの行われるコース(ミッド・オハイオ、ソノマ、フォンタナ)で事前テストを行うことにもなったRLL。彼らのシーズン終盤戦の戦いぶりが非常に楽しみだ。

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