着々と決勝用セッティングを進め、かなり満足の行く戦いぶりを見せて来ていた佐藤琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングだったが、予選前日になって思わぬ事態に直面させられた。ライバルの使用するシボレーのエンジンが予選用ブーストで大幅なパワーアップを実現し、ホンダユーザーたちを窮地に陥れたのだ。
明日の予選初日までに、ホンダとユーザーチームは対応策を見つけることができるのか?
Jack AMANO(以下——)今日走り出すなり、シボレーの速さにビックリしました。最終的にはスコット・ディクソンがホンダ勢のベストとして5番手につけましたが、まだシボレーとホンダの間には、予選でのエンジンに関しては差があるようです。佐藤選手も走行を重ねる中でスピードを少しずつですが上げて行きましたが、まだ上がると感じていますか?
佐藤琢磨:いや、ダメです。僕らの最後の走行は、もう他車との間にスペースを取ることができない状況で、ドラフティングを使ってのスピードになっちゃってましたから。僕らのアレはウソ・スピードですね。
——じゃあ、マルコ・アンドレッティの227.5mph というのは‥‥。
佐藤琢磨:まったく見えてないですね。
——では、明日は考え方を入れ替えて‥‥という戦いになりますか?
佐藤琢磨:今日も色々とテストをして、一時凄い危ない時があったんです。予選に向けたメニューのひとつが全然働かないっていうのがわかった。あの時は物凄くダウンフォースを失って、ヒヤッとするシーンもあったんですけど、昨日の状態にまた戻して、そこからもう1回ビルド・アップをして行きました。最後は、少しずつスピードが戻って来ました。そう思うんですけど224mphに載せたかったんですけど、載らなかったですね。
——ポールポジションが難しいと考えられるとしたら、明日の目標は何に置きますか?
佐藤琢磨:自分たちのベストを尽くすしか無いですね。今までのフリー・プラクティスの中で培った来たものを使ってベストを尽くします。レースのセットアップを確認することも大事なんだけど、明日はとにかく予選で、今日トリミングしたデータをシッカリと見て、明日少しでもスピードが上げられるようなら、そこに集中をしたい。朝はそこに集中することになると思います。
——最近のインディー500の予選ルールで、3回までアタックが許されますが、どんなプランですか?
佐藤琢磨:うーん、まあ、明日の朝のフリー走行の手応え次第ですかね? 自分たちの力を出し切ることができれば、そんなに何度もアテンプトする必要はないと思うんですが、それは勿論、周りのライバルとの位置関係などにもよるし、あまりにも予選ポジションが悪ければ、再トライするしかないですね。
——決勝用セッティングでは良い感触を得て来ていたと思います。戦闘力も高いと確信していたと思います。
佐藤琢磨:そうですね。
——それが予選だけは苦戦という感じになりますか?
佐藤琢磨:いや、ここまでシボレー勢が伸びるとは思ってなかったから。昨日までの走行で彼らって先頭を走っていると216mphとかぐらいがいいところだった。僕らは217mphとか出てた。ドラッグとダウンフォースのレベルとしては、僕らとしても良いところに行ってたと思うし、足回りもその域のスピードでは良かったと思うんですよ。それが今日、220mphを越えて、昨日までとはコーナーに入って行くスピードが全然違う。だから、クルマはもう一度見直して、作り直さなきゃいけない状況でした。明日の予選に向けては、またクルマは良い状態になって行くと思うんですけど、この状態を見て、果たして決勝のブーストに戻った来た時に、シボレー勢が昨日までのプラクティスに戻るかどうかは、ちょっとわからないですね。彼らは何かを見つけるっていうか、ミクスチャーなのか何なのかわからないけど、単純にインディーカーから許されたブースト圧アップだけでの馬力アップではないですよね、このスピード差は。計算で馬力を出したら、もの凄い馬力の違いですからね。だって10mphですよ、彼らの伸びしろは。僕らはいいとこ行って4mphぐらい? 昨日のミーティングでも、だいたい3〜4mphの伸びだろうって話でしたね、計算上はね。だから、シボレー勢が10mphも伸びるとは思ってもみなかったです。
——決勝に向けての勢力図が、昨日までとは大きく変わっちゃう可能性があるということですか?
佐藤琢磨:そうですね。
——今日は結果が良くなかったので、厳しい方向の話ばっかりになってしまっていますが、ハイ・ブーストでパワーアップしたインディーカーっていうのはどういう感触だったんですか?
佐藤琢磨:それはもう、単純に景色が変わって来る。この世界、このスピード域の1mph、2mphは普通のロードコースでのトップスピードの1、2mphとは全然違うので、もうまるで景色が違ってた。今までは何も起きなかったところが、本当に小さな、些細なクルマの動きが凄い出て来るし、風向きによってコーナーの回り易さも全然変わって来る。今日も走行が始まった午後一番と夕方とでは風向きが変わっていた。それによって、ツールって僕らの言うウェイト・ジャッカーとかを変えて行かないと対応できない。それぐらいギリギリになっていましたね。ダウンフォースのレベルと、コーナリングがいっぱいいっぱいに来てましたね。
——昨日までと比べると異次元の世界って感じでしたか?
佐藤琢磨:はい、全然違ってましたね。
——それはエキサイティングですね?
佐藤琢磨:速ければね。ライバル勢との比較でね。絶対的には僕らのスピードも上がってるんだけど、相対的に落ちちゃったから気持ちも沈みますけど、でも、ベストを尽くすしかないです。今日得られたデータは、良かったものも悪かったものも含めて、良いデータだったと思います。
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