「ドライバーは、チームの能力を超えにくい」。「チームの力を越える成績は残せない」とも言い換えられる。トップレベルにないチームで走っていると、トップレベルに入れないドライバーであり続けてしまう。去年までの佐藤琢磨が、これに当てはままると思う。
KVレーシングテクノロジーは、成績の出せないチームの代表みたいなところだった。参戦チームのレベルが低かったチャンプカーで2回勝っただけ(クリスチアーノ・ダ・マッタとウィル・パワーで)。琢磨はKVで戦った2シーズン目に2回のポールポジションを獲得したけれど、今思えば、これらの2回のポールという成績自体が、琢磨の能力の高さや、奮闘ぶりの証明だったのだと思う。
琢磨がインディーカーに来る2年前、KVで走っていたのがパワーだった。その頃の彼は、「非常に速い」、「しかし、勝てない」というドライバーだった。それが、チーム・ペンスキーに移籍するや、勝ちまくるドライバーへとすぐさま進化した。トップレベルのチームで走るようになったら、ドライバーとしての力量がトップへと一気にアップした。端から見ていても、ドライビング・ミスが極端に減った。もともと素質の高かったパワーが、ようやくそれをフルに発揮できるチームで走れるようになったということだ。
今年の琢磨には、これに似た進化が期待できる。移籍先のレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは、近頃の3年間はインディー500のみの出場で、レギュラー参戦をしていなかったし、今年のチームに関しても急造の感は否めない。それでも、オーナーは元チャンピオンのボビー・レイホールで、インディーカーのオペレーションは経験豊富な敏腕マネジャー、トム・アンダーソンが仕切っている。KVとはチームの持つ雰囲気が違っている。
アンダーソンは、チップ・ガナッシ・レーシングの第一次常勝時代にチーム・マネジャーを勤めていた。フェルナンデス・レーソングでは共同オーナー兼チーム・マネジャーとしていくつもの優勝を挙げ、去年はアンドレッティ・オートスポーツにマネジャーとして迎えられ、3戦目にしてマイク・コンウェイを勝たせた。しかし、そのすぐ後のインディー500でマルコ・アンドレッティとコンウェイが予選落ちし、その責任を押しつけられてクビに。アンダーソンはチームの大改革に手をつけていたので、それを望まないスタッフたちに追い出された。
新型シャシーが導入される今シーズンを迎えるにあたって、レイホールはインディーカーへのフル参戦を決意。アンダーソンを雇い入れ、ワークショップ作りとクルー集めを任せた。レイホールは地元オハイオでBMWのワークスチームを運営しているので、インディーカーのチームで働いているのは、アンダーソンに声をかけられた、あるいは、彼の下で働きたいと志願して来たクルーたちだ。そして彼らは、4戦目にして表彰台へと到達した。
ブラジルでもピットで指揮を執っていたレイホール、彼はチームと琢磨の3位入賞を喜んでいたけれど、大喜びはしていなかった。目標は勝つこと。それだけだからだ。そこに強くフォーカスしている彼らとなら、琢磨が初優勝を勝ち取る日が訪れるのも遠くないように思える。
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