琢磨のラップタイムが下がったところで、チームメイトのEJ・ビソがインへと飛び込んだ。序盤の接触によるリタイアは最悪。それもチームメイト同士となったら目も当てられない。琢磨はこれを避け、そのせいでマーブル(タイヤかす)を拾った。そこからペースを取り戻すまでの間に順位は9番手まで落ちた。そして、これがピットアクシデントの引き金となった。
ミルウォーキーは1マイルのショート・オーバル。当然ピットロードは短く、各ピットボックスが他のコースに比べて小さい。マシンをキチッとボックス内に停めることも簡単ではないほどだ。ピットでのアクシデントには十分に気をつける必要があった。
Photo:INDYCAR(Shawn Gritzmacher) |
今回の琢磨のピットボックスは、テキサスでの予選順位から決められ、前から5番目だった。琢磨より前のピットはアレックス・タグリアーニ(サム・シュミット・モータースポーツ)、ダリオ・フランキッティ(チップ・ガナッシ・レーシング)、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)、エド・カーペンター(サラ・フィッシャー・レーシング)。琢磨の後ろはトニー・カナーン(KVレーシングテクノロジー・ロータス)となっていた。ディクソンは琢磨よりふたつ後方のピットだった。そのことを琢磨は明確に認識していたのか……。
そうした情報を無線で提供するのはスポッター、もしくはピットの指揮官だ。KVレーシングの場合、マシンがコース上にいる間はスポッター、ピットレーンに入ったらピットの指揮官=共同オーナーのジミー・バッサーが指示を担当すると決められている。
今回のケース、バッサーから琢磨に対して、「ディクソンの動きに注意しろ」という指示はなかった。スポッターのロジャー安川は、「まだマシンがコース上にいる時点で“ディクソンが先にピットボックスに向かうので注意”という情報を伝えておくべきでした」と話していた。もちろん、琢磨本人がディクソンのピット位置をあらかじめ把握していて、前にカット・インしてくることを予測しているのがベストであった。
ディクソンは琢磨より手前にピットがあり、前方を走っていたのだから、優先されて当然。しかし、アクシデントは起きてしまった。そこで考えられるのは、ピットレーンでの指示担当をKVレーシングは再検討すべきではないのかということだ。自分のピットボックスが近づいたところでの減速をし易いように、「3、2、1」とカウント・ダウンするのは、ピットにいる指揮官がやるのが良いであろう指示だが(スポッターにも十分に可能なことだが)、まだ遠い位置にいる間はスポッターの方がベターだ。マシンと同じ高さのピットからだと、前後にいるマシンとの距離感はかなり近づいて来てからでないと掴みにくいが、グランドスタンドの上から俯瞰しているスポッターは位置関係を把握し易いからだ。それはピットアウトも同様で、安全なアウト・レーンまで一気に出るべきか、アウトを加速してくる者がいるのでイン・レーンまでの飛び出しでとどめておくべきかは、スポッターの方が指示はし易いと思われる。
KVレーシングの無線システムには優先順位がセットされていて、スポッターが指示を出している最中にピットの指揮官が何かを言えば、そちらの方が優先されてスポッターの声を打ち消してドライバーの耳に届くことになっているという。それならなおさらのこと、ピットレーンに入っても、ピットボックスが近づくまではスポッターからの指示メインで行くのが良いのではないだろうか。
大抵のアクシデントがそうであるように、今回のピットアクシデントも他に幾つかの要素が重なっていた。
まず、琢磨もKVレーシングも5番手、6番手という前方のグリッドに慣れていなかった。ディクソンらのトップコンテンダーたちが彼らより後方のピットボックスだったのは、今回が初めてに近かった。そして琢磨は上位を戦っていたので、混み合ったゾーンでピットストップを行う必要があった。しかも、ミルウォーキーのピットボックスは小さい。パワーのタイヤをフランキッティがヒットしてしまったのも、ピットが小さいことで起きたトラブルだった。さらにもうひとつ、琢磨がピットボックスに近い側のレーン(ロー・レーン)を走っていたこともアクシデントに繋がった。本コースに近いハイ・レーンを走っていれば、ディクソンの真後ろを走るしかなく、ラインが交錯する事態は起こり得なかった。それでも琢磨がロー・レーンにいたのは、ハイ・レーンから自分のピットボックスに向かうと、ちょうどそこにアスファルトの舗装となっている部分があって、その凹凸が大きく、ブレーキングをしながらの進入でバランスを崩しかねないからだった。そこを避けるために琢磨はロー・レーンに早目に入っていたのだ。
前方のピットは、レースを戦う上でアドバンテージとなり易い。しかし、ミルウォーキーのピット選択でKVレーシングは少々不運だった。アスファルト・パッチの存在は、ピットを実際に使い始めてからその不利に気づいたようだった。その舗装は新しく、作業がされたのは最近のことのように見えていたから、プライベートテストの時にその影響を受けるピットを使ったチーム以外は存在を知らなかったのではないだろうか?
KVレーシング、そして琢磨はミルウォーキーで苦い経験を味わった。しかし、今回のことから学ぶべきことは多く、チーム力をまたレベル・アップさせることに繋がりそうだ。今後はピットボックスの選択でも、より多くの要素を考慮、検討がなされることになるだろう。
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2011 INDYCAR 佐藤琢磨コメント 46 R7 ザ・ミルウォーキー225 Race Day 決勝「序盤のペースは悪くなかった。でもピットレーンで目の前を横切るディクソンに接触してしまった。追い上げて8位となり、多くのことを経験して凄く勉強になった」
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