2011年6月4日土曜日

2011 INDYCARシリーズ レースアナリシス R5 インディ500 その5:ダリオはヒルデブランドと同時期に給油、しかし失速……。チップ・ガナッシの攻めすぎたピット戦略

チップ・ガナッシ・レーシングは今回のインディ500ではスピードを追及するために燃料の搭載量を極限まで減らす戦略をとっていたようだ。
Photo:Naoki Shigenobu
 今年のインディ500は、レース終盤の展開がトップグループを走っている者たちに不利となった。上位のポジションを諦めてピットへと呼び込むのには大きな勇気がいる。中団以降にいるマシンは給油を行ってもポジションダウンへのダメージを小さくできるので、燃料の心配をなくすというメリットの方が大きくなる。

 しかし、チップ・ガナッシ・レーシングはトップを走っていたダリオ・フランキッティをピットへ向かわせた。フルコースコーション中の164周目のことだった。しかも、レースにグリーンフラッグが振られたのは翌165周目。フランキッティはリスタートで加速する集団の最後尾に何とか追いついた。順位は12番手まで落ちていた。
 ゴールまでは35周。通常のスピードで走った際のフューエル・ウィンドウは30周プラスだから、ゴールまでイエローが出ないとしたら、燃費走法が必要とされる残り周回数だ。

 180周目、フランキッティは6位に浮上していた。トップはダニカ・パトリッック(アンドレッティ・オートスポーツ)。このタイミングで大きなアクシデントが起こらない限り、彼女がゴールまでその座を守るのは難しい状況だった。
 190周目、フランキッティは一気に2位へとポジションを上げた。トップはバートラン・バゲット(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)。彼が最後にピットしたのは159周目だったから、ゴールまで燃料を持たせるのは至難の技だった。
 197周回、バゲットがピットへ。これでトップに立ったのは……フランキッティではなく、JR・ヒルデブランド(パンサー・レーシング)だった。

 ガナッシの作戦は失敗に終わった。いや、実際には彼らの作戦にミスがあったようで、フランキッティはゴールの5周以上前から大幅にスピードダウン。196周目にヒルデブランドにパスされたのだった。その後はさらにスピードを下げ、燃費をセーブしてゴールを目指したフランキッティだったが、199周目にピットイン。165周目のリスタートへとピットアウトした時と同じ12位でゴールすることとなった。
 フランキッティと同じタイミングでピットインしたのがヒルデブランドだった。ルーキーの彼がゴールまで走り切れ(クラッシュはしたが)、燃費走法とスピードの両立ではシリーズ・ナンバーワンとも考えられているダリオが走り切れなかった。なぜそうなったのか? それは、ガナッシのピットが10号車に燃料を必要なだけ入れることに失敗したか、満タンまで敢えて給油しなかったかのいずれかだ。そして、今年のケースはショート・フューエルだったのではないだろうか? タンクをフルにしなかったのだ。「もう1回はフルコースコーションが出る」という読みで……。その思惑は外れた。

 スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)も最後は燃料切れだった。ダン・ウェルドン(ブライアン・ハータ・オートスポート・ウィズ・カーブ/アガジェニアン)の前へとピットアウトしたが、燃料が底をついて優勝を逃した。こちらは燃料計算のミスだったと見られる。ギリギリ足りる分を入れたつもりが、あと少し足りなかった。
 フランキッティの164周目に行ったピットインは、ひとり相撲だった。もちろん今だから言えることだが、あのままトップを走り続け、1回の給油を普通に行っていたら、彼は悠々と2年連続、キャリア3回目のインディ500優勝を挙げていた可能性が強い。

 ポールデイにもチップ・ガナッシ・レーシングは燃料不足に泣かされた。フランキッティ、ディクソンのふたりが最終ラップにガス欠症状に陥り、フランキッティは予選9位、ディクソンは予選2位となった。燃料の搭載量をギリギリまで減らしてでもスピードを追及する。それが今のインディカー・シリーズでトップを争うためには必要だ。しかし、今年の彼らはその点で攻めの姿勢が強過ぎたのかもしれない。

2 件のコメント:

  1. 給油の失敗が無ければチップ・ガナッシのワン&ツーだった可能性が高いですね。
    その場合、最後までフルスピードのディクソンが 燃費走行のダリオをかわして優勝していたと私は思います。

    もんた

    返信削除
  2. もんたさん、チップ・ガナッシは限界を超えた燃料調整を目指して、本当に走行の限界を超えてしまった訳ですが……。トップチームといえども、ここまでしないと勝てない、熾烈な戦いですね。
    速さとマージンのトレードオフをどう決めるのか、そこがエンジニアの腕の見せ所ですね。でも、今年は面白いレースが続いています、この先も楽しみですね。(更新係)

    返信削除