難しかった残りラップ数の算出
去年のセント・ピータースバーグでのレースは雨で月曜に延期された。あれから1年と少し。今度はブラジル、サンパウロのストリートレースが月曜へと順延された。
日曜にほぼ予定通りのスケジュールでスタートした75周の決勝は、14周で2度目の赤旗が出され、続きが月曜に行われることとなった。
赤旗の時間を除くと、14周にかかったのは約40分。インディカーには「2時間ルール」があるので、月曜のレースは1時間20分で争われることになった。
月曜のスタート前に全員が燃料満タンにすることを許されていた(=義務ではなかった)。ドライコンディションでのラップタイムがだいたい1分25秒の平均になるとすると、それだけで1時間26分が必要なのでフルディスタンスは無理。では、何周でその2時間が訪れるのだろうか?
レース再開を目前に雨が降り出した。ペースダウンは確実だから、周回数も減る。給油は1回だけでゴールできるはずとなった。ピットのエンジニアたちは計算が大変だった。ウェットコンディションではラップタイムの変動が大きいので、ゴールを迎えるラップが何周目になるかが雨量やフルコースコーションの回数や時間によって変わってくる。
琢磨の優勝の可能性を分けたレース再開19周目のフルコースコーション
33周目=月曜のレース再開から数えて19周目、ダリオ・フランキッティ(チップ・ガナッシ・レーシング)がターン1をまっすぐ行ってまうミスを犯し、タイヤバリアに突っ込んでストップした。これを見てピットへと飛び込んだのが10位を走っていたアレックス・タグリアーニ(サム・シュミット・モータースポーツ)。ロングビーチでも同じシーンがあったが、フルコースコーションが出されると読み、ピットがクローズされる前に給油を行ってアドバンテージを得ようとしたのだ。しかし、ダリオのマシンを移動するためのフルコースコーションは出されず、その代わりにタグ自身がコーションを出した。ピットアウト後にコース上でスピンし、エンジンをストール。コースの真ん中にストップした彼は、トップに立つはずが、逆に周回遅れの19位にまでを大きく順位を落とすことになった。
タグ以外のドライバーたちにすれば、これで格好のピットタイミングができた。36周目にピットがオープンになると、全車がピットロードへと雪崩れ込んで……と思ったら、トップを行く佐藤琢磨(KVレーシング・テクノロジー・ロータス)は入ってこなかった。2位のウィル・パワー(チーム・ペンスキー)以下がピットインして、マルコ・アンドレッティ(アンドレッティ・オートスポート)もステイアウトして2番手へ浮上。EJ・ビソ(KVレーシング・テクノロジー・ロータス)も5番手から3番手へと順位を上げた。パワーは8番手までポジションを落とした。
KVレーシングのステイアウトの判断は何処から来たのか
なぜ琢磨はステイアウトしたのか。チームの考えは、「もう1回フルコースコーションが出れば、給油しなくてもゴールまで走り切れる」というものだった。「現状で燃料は4周足りない計算だが、コーションが出ればその心配は解決される」と彼らは話していた。
月曜だけですでに3回のコーションが出ていた。レース終盤はバトルが熱くなってアクシデントの可能性も高まるため、コーション発生の可能性も高い。
しかし、コーションが出る保障はゼロ。琢磨陣営が採った作戦は正攻法ではなく、ギャンブルだった。
ギャンブルは先頭グループ以外を走っているチームが採るべきものだ。なぜKVレーシングはトップを快走していながらギャンブルに出たくなったのか……。そこには負の思考があったと思う。チーム・ペンスキーのピット作業は速い。それは誰もが知っている。プレッシャーがより大きくのしかかるのはKVレーシングのクルーたちの方だ。トップを走り慣れていないチームなのだから、なおさらのことプレッシャーは大きくなる。「ピットで順位をひっくり返されたら、もうトップを奪い返すのは不可能かもしれない」、「トップを明け渡したくない」。そう考えたピットは、「ステイアウトすればトップを難無く走り続けられる上、フルコースコーションが1回出るだけでゴールまで走り切れる。レース終盤にフルコースコーションは出やすい傾向がある」……といった誘惑に傾いてしまった。
この苦い教訓を次からのラウンドに生かすことが出来るのか?
琢磨のこの日の速さを考えれば、ポジションを落としても再びトップに返り咲くことと期待ができた。1レースでペンスキー勢を2度ブチ抜いて優勝したら、レース業界を含めた世間にどれだけ大きなインパクトを与え、チームとドライバーがどれだけ大きな自信を得られたことか……。
パワーたちとのバトルに敗れた場合でも、大きな達成感や充足感を手に入れ、次の戦いへのエネルギーになったと思われる。
勝ち慣れていないチームというものは、えてしてこういう判断ミスをしがちだ。今回の悔しい経験から彼らはどれだけシッカリと教訓を学べるだろうか。これだけ逃した魚が大きいとショックが抜けず、チームが勢いを落としてしまうこともある。KVレーシングはインディ500までの短いインターバルを使って体制を立て直さなくてはならない。「勝利に限りなく近づいたのは、それだけの力があったから」。そうポジティブに捉え、さらに一歩の進化を遂げることを目指さなくてはならない。
さらに、ウィル・パワーのフロントサスペンション、曲がってたし。う~ん、琢磨の悔しさがよく理解できました。ありがとございます!!
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