Photo:Naoki Shigenobu |
予選10位
2回目の挑戦となるインディ500、佐藤琢磨の予選結果は10位となった。4周連続アタックの平均時速は225.786mph(=約363.290km/h)。あとひとつ上に行ければファスト9に進出できたと琢磨は悔しがっていたが、トップ10入りはまずまずの結果だろう。残る課題は決勝用セットアップの向上。それができれば、今年もレースで彼は暴れ回ることができるはずだ。
Jack Amano(以下――):予選は10位でした。今日1日を振り返ってください。予選前のプラクティスはどういうプログラムで、成果はどうだったんでしょう?
佐藤琢磨:今朝の走行は2回だけ走るってことに決めていました。タイヤを2セット使うって意味です。昨日の夕方やった予選の練習の続きで、最終チェックですね。昨日の夜から少しセットアップを変えているので、そのチェックと、今日のコンディションに合わせて行くっていう意味合いが強かったですね。プラクティスが朝なので、飽和水蒸気量っていうか何ていうのかな? 空気の密度がすごく高いので、ダウンフォースの量も大きく変わるし、トップスピードも変わるし、マシンのバランスも変わるので、朝走ったそのまんまを予選に持って行くってわけには行かないんです。そのあたりの、例えば自分たちが思い描いたフィルターと実際のとオフセットがあるかどうかっていうのを見たりしながら、クルマが実際に予選でどのように動くのかっていうのをシミュレートしてました。ただ、予選を走る時には、もっと暖かくなると考えてました。自分たちが走るのが1時過ぎ頃になるっていうのは、昨日の順番を決めるクジを引いた時点でわかっていたので、日差しが出れば昨日の夕方と同じぐらいになるだろうと。かなり暑い中で走るだろうって見てたんですけど、意外に涼しくて、風向きもこれまで走ってたのとは違う角度になってました。まぁどうなるのかなっていう感じでしたね、予選を走る前は。
――湿度も高く、寒いコンディション、昨日226mphを安定して出していたクルマからは結構変えてったということですか?
佐藤琢磨:そうですね。本来であればもうちょっとダウンフォースを削る方向の方が良かったと思うんですけど、そこらへんは難しいですね。どれだけ攻めてってリスクを負うのかっていうところが。チームの戦い方もあると思います。今日は、絶対確実に予選を通らなきゃいけないっていうのがあったので、僕らは特にレースセットアップにまだ不安を抱えているのでね、明日は絶対に練習をしたい。そういう意味では今日予選を通過するのは絶対条件だったんです。それで、なおかつスピードを見ながら、トップ9にチャレンジできようであればして行こうっていう感じでしたけど、でもまぁ予選前の練習のスピードを見るとトップグループはやっぱりすごく速かったので、どこまで行けるのかはやってみないとわからないっていう状況でした。
――できれば1回のアタックでグリッドを確保したいって考えでしたか?
佐藤琢磨:そうですね。1回で決めたいって考えてました。難しいのは、トップスピードだけを狙うとタイヤの落ち込みというかがあってラップタイムが落ちてっちゃう。ここの予選は4周の平均速度で決まるので、今日の僕らの戦略としては、とにかく安定してタイムを揃えるってことを目標にしてました。
――夕方から雨になるという予報があって、実際に降ったわけですが、チームとして2回走ることは想定してたんでしょうか?
佐藤琢磨:いや、もちろんバンプアウトされるような状況になればやらざるを得ないですけども、僕があのポジションに入った時点で、チームは「おしまい」って感じでしたね。僕だけだったみたいですね、走りたがってたのは(笑)。
――9位までが第2セグメントに進めるのに、ひとつ後ろの10位っていうのはドライバーとして悔しいですもんね?
佐藤琢磨:悔しいですよね、もちろん。悔しいから僕だけひとりでさっきから騒いでんですけど、でも、ダメだって。ここでプルアウトして、1回練習やんなきゃいけないですよね。ダメだったところを確認するために。で、もしラインに並んで雨が降ってきたら、もしラインに並んでエンジンがかからなかったら、あるいは何かトラブルがあったりしたら、おしまいなので、僕が今ここでどんだけすべてを出し切ったとしても、まぁ3列目より上は物理的に不可能ですよね? そうしたら、ふたつぐらいポジションを上げて今10位なのを9位にするか、8位にするか……のリスクを見た時に、まぁ全然その価値がないって判断で、チームとしては、もうダメって言ってました。僕としては何回か、走らないって判断に対して渋ったんですけどね。
――練習走行を再開して、226mphの半ばとかを出せたら……
佐藤琢磨:半ばは無理じゃない? 226フラットは行けたと思いますよ。でも、わからない。そういうのはタラレバなので、僕の予選の走りがどれだけ外からカメラで映ってたかわからないけど、どれだけギリギリだったか……。
――1周目にターン3の立ち上がりでリヤが大きく動いたのはテレビの画面でも見えましたよ。
佐藤琢磨:はい。ありましたよね、もてぎみたいなのが。だから、逆にそれがエンジニアのガレットとしてみればショックだったみたいで、本当にもうガラスのようなクルマなんですね、今。フラジャイルっていうか、お尻がもうギリギリのところの手前だったらいいけど、それを越えたら一気にブレイクしちゃうような……。だから昨日から言っているレースのセットアップができてないっていうのは、ここに来るんですよ。だからそれを追求して、治す方がよっぽどね、すでにもうギリギリだったわけだから、ポジションを上げられない可能性もあるからってことです。
――予選の4周の走りはどうでしたか? 1周目にマシンが暴れたっていう話は今出てましたが?
佐藤琢磨:自分としてはかなりアグレッシブに走りましたね。ていうのは、タイムが落ち込んで行くのはフロントタイヤのデグレデーション……つまり落ち込みだけなんですね。だから、いかにアンダーステアを出さないように走るかしかないんですけど、もちろん、お尻が流れたら意味がないので、それは抑えなくちゃいけない。そこらへんはバランスが難しくて、でも、1周を走って感触を得てね、調整でアンダーステアに持ってくことはできたんですけど、それをやったら次の周に自分を苦しめることになるんで、それをしたくなかった。もうギリギリのところで乗り続けようと、4周、バーを常に調整してニュートラルに近づけた走りをしました。そういう意味では、あの時に自分が持っていたクルマの中では、ベストの転がり抵抗で走れたと思います。
――計測1周目に入ってもマシンの下から火花が見えてました。タイヤの内圧が上がって行かなかったんですか?
佐藤琢磨:そう。タイヤもやっぱり落ち込むことがわかってたので、ちょっとでも持たせようと思って結構僕はスローなウォームアップラップをしてるんですよね。で、それが影響した。あと、さっき言ったように、気温が低くて空気密度が高かったんで、予想よりダウンフォースが出ちゃってて、それでマシンが底を打ってた。だから、暖かい状態だったらパーフェクトだったんですけど……。
――総合的に見て、この4周は満足感の行くものでしたか?
佐藤琢磨:まぁ、自分としてはあれ以上は速く走れないって状況までは持って行けたつもりですね。だから、そういう意味では達成感はあります。でも、クルマがやっぱり、ああいう風にナーバスになってたっていうところを打ち消せてれば、もうちょっとスピードは伸びたかもしれない。そういうのを残したまま終えるのは、やっぱり悔しい。あと、もうポジションひとつで9番手だったし。
――予選10位に対する自らの評価はどうでしょう?
佐藤琢磨:10番はキリもいいと思います。インサイドというのも悪くないですよね、サンドイッチになっているよりは。
――去年が31番手スタートでしたっけ? 今年は前が良く見える10番手からのスタート。かなり気分は良いんじゃないですか?
佐藤琢磨:そうですね。ポジションもそうだし、まぁここまでのプロセスで、しっかりとプログラムを消化して、予選でも力を出し切って、チームのベストでここまで来れたっていうのは大きな進歩だと思います。去年とは比べ物にならないぐらいです。自分も、この先……なんていうのかな? 例えば明日練習走行ができて、カーブデイでトラフィックの中での練習ができてレースに行くっていう、自分の中でイメージがもうあるから、随分と精神的にはラクですね。
――じゃ、あとは課題のレースセットアップを明日一気に進歩させるってことですね。
佐藤琢磨:はい。そこが一番の今の課題です。
――チームメイトたちと話をして、何か良さそうなアイディアとかはあるんでしょうか?
佐藤琢磨:まだないです。あったらもうすでに……だからここからアイディア出しをして行って……まぁ明日ですよね。明日、予選もあるので、どれぐらいうまく練習走行ができるかわからないですけど、晴れてくれれば、多分去年も夕方まで予選が始まらないぐらいタイムが出なくなる状況だったんで、そうなればレースセットアップを色々試せると思います。
――去年のインディ500の決勝、琢磨選手はアグレッシブに戦っていたと思うんですが、そのマシンの感じっていうのは今年のクルマにはないんですか?
佐藤琢磨:いやいやいや、そういうことはないですよ。去年は何がなんだかわからない状態でスタートしなくちゃいけなかったし、最初はイエローの度にピットに入ってクルマを造ってくレースでしたよね? 僕のレースはほとんど中盤から始まったみたいな感じだったんですけど、でもレース中はね、順位を順調に上げて行くことができたし、まぁキッチリ完走したっていうのは、今年のレースを戦う上ではすごく大事だったので、あれはなくてはならないレースだったかもしれない。で、今は、去年と今年では置かれている状況が全然違うから。去年は全然攻めれなかったところが今年はどんどん攻めて行けると思います。
――完全に去年よりも琢磨選手の要求のレベルが上がっているということなんですね。
佐藤琢磨:そうですね、はい。まぁ、だからこそどんどん前を行くクルマを抜いて行けるようなクルマにして行きたいって思って、そういうセットアップを練習走行でできなかったんで、一昨日はそれがすごくショックだったっていう状態ですね。
――明日、そのレース用セットアップが好転することを期待しています。
佐藤琢磨:はい、頑張ります。
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