レース後に佐藤琢磨(KVレーシング・テクノロジー・ロータス)は、「2ストップでも3ストップでも行けるよう幅を持たせていた」と彼らのを作戦を語った。スタート用に選んだタイヤはブラック(ハードタイプ)。出走27台で予選22位という後方グリッドからの発進だったのだから、このチョイスは極めて妥当だった。
琢磨陣営は2ストップで戦って10位までポジションアップし、フロントグループでのアクシデント発生で6位を走った。その直後に追突されて上位フィニッシュを潰されたワケだが……。
彼らの作戦は成功しかけていた。22位スタートで6位か、それ以上の結果を得られるところだったのだから。ただ、序盤の23周目、ジャスティン・ウィルソン(ドレイヤー&レインボールド・レーシング)がヘアピン状の最終コーナーでスピンした時に、1回目のピットに入るという手も、実はあったのだ。
23周目といえば、琢磨は同じくレッド装着のダニカ・パトリック(アンドレッティ・オートスポート)やラファエル・マトス(AFSレーシング)の後ろにスタックしていたのだから、コースの空いているところを走れるよう、ピットタイミングをずらす作戦に出てもよかった。
抜きにくいロングビーチゆえ23周目、3人がピットインを決断
迷うことなくピットへ飛び込んできたのは、10位周辺を走っていたアレックス・タグリアーニ(サム・シュミット・モータースポーツ)、トニー・カナーン(KVレーシング・テクノロジー・ロータス)、ライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)の3人だった。フルコースコーションが出されるか否か微妙なところだったが、「ピットがクローズされる前に!」と彼らはピットロードへステアリングを切った。
ここでフルコースコーションは出されず、3人の判断は誤りだったかに映ったが、2周後に今度はシモーナ・デ・シルベストロ(HVMレーシング)が同じ場所でストップ。今度はフルコース・コーションが出された。ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)を先頭とするトップグループは、フルコース・コーション下で1回目のピットストップ。4周目にピットしているタグリアーニとブリスコーは当然ステイアウトで、1、2位にポジションを上げた。カナーンは3位を走るチャンスだったが、燃料補給をもう一度行うためにピットした。
琢磨もここでピットしていたら、3位に浮上していた。KVレーシングとしては、カナーンをピットさせたので琢磨は呼び入れないことにしたのだろう。しかし、琢磨も22位という後方を走っていたのだから、ギャンブル的であってもピットさせてよかったのでは?
ブリスコーの2位をもらたしたペンスキーの決断力
琢磨と同様にブラックでスタートしたブリスコーは、中盤をレッドで走り、ブラック装着のトップグループを突き放した。2回目のピットストップをグリーン下で行った後も彼はトップを保ったほどだった。最後にマイク・コンウェイ(アンドレッティ・オートスポート)に抜かれて2位になったが、彼に10個ものポジションアップと表彰台フィニッシュをもたらしたのは、ブラックスタートという作戦と、23周目にピットインさせたチームの決断力だった。
タグリアーニはレッドスタートでブラック、レッドと繋いだ。彼は2回目のピットの後に琢磨の目の前を走っていたのだから、どちらの作戦でも結果は変わらなかったかにも見える。しかし実際には、“タグ”はレッドの磨耗が激しかったために順位を落としてきていた。琢磨は燃費セーブモードでもコンスタントに走り、順位を上げていった。トップグループと渡り合えるだけのマシンには仕上がっていなかったかもしれないが、序盤に3位までジャンプアップしていたら、琢磨は少なくとも今回より遥かに楽なレースを戦うことができ、違う結果を手にできていたと考えられる。
23周目にピットインを敢行。その結果24位まで後退してしまったものの25周目に出たフルコースコーションでブリスコーは一気に2位までと浮上。レース中盤の主導権を握ったのだった。 Photo:INDYCAR(Richard Dowdy) |
そうはいうものの、後悔ばかりしていても仕方がない。それよりロングビーチでのKVレーシング・テクノロジー・ロータスが、去年は考えられなかったぐらいに高いチーム力を発揮していた点を指摘しておきたい。彼らは予選まで苦悩したマシンセッティングをレース前に戦えるものへと修正し、作戦面でも積極的に攻めて行く姿勢を見せ、成功を掴みかけたのだ。彼らの今後の戦いぶりが楽しみになるレースだったのだ。
GAORAの生中継でレースを見ていました。
返信削除23周目にジャスティン・ウィルソンがスピンした時、17位以下の集団に居た佐藤選手は既に約50秒トップから遅れていました。ここでピットインしてしまうとラップダウンになってしまうので、それを嫌がったと言うことではないでしょうか。事実、17位以下の集団は(私の知る限りでは)この時誰もピットインしませんでした。逆にピットに入った3人はトップから20秒遅れ程度で、ラップダウンにならない事がわかっていたからこそピットインするギャンブルをした(と言っても、レース前にプランに織り込み済みだったでしょうが)のだと思います。
結局、すぐ後にフルコースコーションが出たので、他車よりも先にピットに入っていたとしても(余計なピットストップをしてラップダウンされた)カナーンの様にリードラップに戻ることができたはずなので、入る選択もあったのかも知れません。ただ、このコーションの後、カナーンは佐藤選手の後ろになってしまって、我慢の走りを強いられたのではないかと思います。佐藤選手の性格からすると、レースの半分以上を我慢する様な戦略はあまり考えないような気がしますが、いかがでしょうか。
hidUeさん
返信削除コメント、ありがとうございます。
書いてくださったのに、確認が遅れていまして、すみませんでした。
かなりの量のデータとともに鋭い観戦をされていますね。これに関して、我らがジャックに何か意見があるか聞いてみます。
今日も怒濤の原稿書きの最中なのが、心配ですが……(更新係)
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返信削除hidUeさん
返信削除原稿書きの忙しい合間でジャックにこの件について、聞くことができました。
「御指摘の通り、KVのピットは周回遅れを嫌って……という判断だったのでしょう。ただ、後方スタートならギャンブルは必須。あそこでピットした3人はイエローが出ると読んで、それが出る前にピットに入ってアドバンテージを得たかった。
もっと後方を走っていた琢磨選手のピットとすればギャンブルと知って呼び込むって選択肢もあったと思います」
と、レースの見解としてはhidUeさんと同じですが、『ギャンブルをするか? しないか?』のラインをどこに引くかというところでしょうか。台数が多いレースですとギャンブルによるゲインが大きくなる傾向があるので(失敗したらロスが大きくなりますが)、自信があって、一発を狙う陣営は積極的に仕掛けてくるでしょうね。(更新係)